第25話 牧柵に弾くバンジョーや秋高し


 

 

  

 ノリオをドライブに誘ってくれたのは、幼馴染みの男女3人でした。

 

 ――木曽馬を見に行こう。

 

 ケンジから声が掛かったとき、ノリオはたちどころに断ろうとしました。

 いまさらおめおめ同級生の前になど……という気持ちがあったからです。


 けれど、独身と主婦のアキコとカナエからも温かな誘いのメールが届き、ふたり異口同音の「♪またみんなであの歌をうたおうよ」に、ふっと心が動いたのです。


 

                 🚙


 

 長いこと家に籠っていたので、見るもの聞くもの、すべてが新鮮です。

 高原の牧場に着くと、さっそくケンジがバンジョーを取り出しました。


 空はマリンブルーに晴れわたり、風はひんやりと心地よく、牧柵のはるかかなたでは木曽馬の親子がなだらかな丘を疾走したり、仲よく草を食んだりしています。



 なつかしい前奏が始まりました。

 

 ――Bridge Over Troubled Water。

 

 高校時代によくうたった Simon & Garfunkel の『明日に架ける橋』。

 傷ついた友だちを励まし、さあ一緒に歩もうよと手を差し伸べる歌。



 

                 🎸


 

 

  When you're weary

  Feeling small

  When tears are in your eyes

  I will dry them all


 I'm on your side

  When times get rough

  And friends just can't be found

  Like a bridge over troubled water

  I will lay me down

  Like a bridge over troubled water

  I will lay me down


  When you're down and out

  When you're on the street

  When evening falls so hard

  I will comfort you


  Sail on Silver Girl,

  Sail on by

  Your time has come to shine

  All your dreams are on their way


  See how they shine

  If you need a friend

  I'm sailing right behind

  Like a bridge over troubled water

  I will ease your mind

  Like a bridge over troubled water

  I will ease your mind



                 👦



 きれいなコーラスが終わると、自然にみんなから拍手が湧き起こりました。

 高校時代は仲良く机を並べていたのに、それぞれの人生に歩み出してから久しい現在はさまざまな境遇にある4人は、すっかり懐かしい時代にもどっていました。

 

 ――もう一度、やり直してみようかな。

 

 堅かった頬がゆるんだノリオは、自分のなかに湧いてくる力を感じていました。

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