第24話 枯葦やパチンコ店は出玉の日



 

 

 早朝の2時間、真冬でも半袖にユニホームのエプロンでみっちり2時間働くと、頭から湯気が出るほどの大汗をかくのが、パチンコ店の開店前清掃という仕事。


 非正規雇用の県庁職員の契約が終了したので、つぎの仕事が見つかるまで、ほんのつなぎのつもりで応募したミサトでしたが……正直、初日から音をあげました。

 

 ――はぁ~、わたし、舐めていたわ、清掃という仕事。

 

 家の掃除と一緒でしょうと軽く考えていたのですが、どんな仕事もプロとアマでは雲泥の差で、30代から70代まで10人ほどの先輩諸氏の身の軽さときたら!


 いままでは事務作業が大半で、本格的な肉体労働が不慣れなミサトにとっては、たった2時間なのに、ハーフマラソンを完走したほどの激務に感じられたのです。

 

 

                  🏃


 

 それでも、そこは根性で(笑)何とか休まずに通い詰めて1週間目の朝のこと。

 いつものように秒単位の仕事を終え、もの堅い会社のように紺のスーツ姿で出勤して来た男女社員さんと入れ替わりに事務室を出たミサトは、あっと驚きました。

 

 ――なんですか、これ?!

 

 平日の朝9時だというのに、お店の入り口付近には長蛇の列ができています。

 

 ――ああ、今日はデダマの日だから。

 

 金髪をポニーテールにした元ヤンの先輩が、面倒くさそうに教えてくれました。

 パチンコという遊戯をしたことがないミサトにも、デダマの意味はわかります。


                  

                  🌷



 店が儲かるのはいいけど、どうなんだろう、ここに並んでいる人たちの生活は。

 そんな甘ったるい感懐は、翌日の朝、みごとに根底からひっくり返されました。

 

 ――な、な、な、なんなの? この凄まじい汚れようは!

 

 清掃終了後、ミニスカコスプレの社員さんがもっとも目を光らせてチェックする千台の遊技台の銀色に光る部分の手垢、飛び散った煙草の灰が、ふだんの何倍も!


 どんな状態であろうとも、開店前の2時間で完璧に仕上げるのがプロの仕事。

 ひたすら店内を走りまわる先輩諸氏に、ミサトは心からの敬意を捧げました。

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