第21話 つゆくさの帰りそびれて地の星に
あら、おはよう、黒犬さん。
あたしの名前はホタルコよ。
どこどこって、ほら、あなたの黒い鼻づらのすぐ前に咲いているのがあたし。
あたしね、この小さな家の子どもなの。
いやね、きょとんとしちゃって、ほんとうにほんとうなんだってば。(*'▽')
10年前の今日があたしの誕生日。
それから毎年、あたし降って来るんだ、ひと晩限りの地の星になるためにね。
🌠
わけがわからない?
じゃあ、とくべつに、あなただけにお話してあげるわね。
あたしね、この家の父ちゃんと母ちゃんの子どもになるはずだったのに、慌て者の神さまがひとつ手順を飛ばしちゃったおかげで、いきなり星になっちゃったの。
でね、いまさらどうしようもないんだけど、せめてその代わりということでね、幻の誕生日の前夜、父ちゃんと母ちゃんのそばに降らせてくれることになったの。
ほんとうはひと晩だけっていう約束なんだけど、ふだんから泣き虫の母ちゃんが今年はとりわけ泣いて泣いて泣いて、身をよじるようにして泣きじゃくっていて、懸命に慰める父ちゃんも困り果てていたから、あたしも空へ帰れなかったの。(;_;)
でもね、ついさっき南側の窓が開いて、あたしを見つけた母ちゃんが、
――まあ、きれい。ねえ、あなた、お星さまが降って来たみたいね。
さびしい笑顔を見せてくれたから、今夜はなんとか安心して空へ帰るつもりよ。
せっかく会えたあなたともお別れだけど、来年の今頃、また会えるといいわね。
🐕
星色をしたつゆくさの花に、濡れた鼻づらを押し当てていた黒犬が、とつぜん、
――クフ~ン!
悲しそうな鳴き声をあげたので、連れていたご主人は、びっくりしたようです。
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