第16話 十年目のわが子記念日秋うらら





 タツヤとヒトミ夫妻のひとりむすめのコハルは、


 ――推定15歳。


 粉雪が舞う山中の路上にぽつんと置き去りにされていたこの子は、だれの仕業かめちゃめちゃに脊髄が傷つけられているので、自力で歩くことができません。


 なのに、木材搬出用のトラックで、まちの動物保護団体に連れて来られたとき、すべてを受け入れているかのように、穏やかな笑みを浮かべていたそうです。


 インターネットでコハルを知ったタツヤとヒトミはそのころ新婚半年でしたが、ふたりでとことん話し合った末、コハルを家族として迎えることを決意しました。



 

                 🐕



 

 それから10年。

 いまやコハルはすっかり、この家の中心人物、いいえ、中心犬になっています。


 ――父ちゃん母ちゃん。


 互いをそう呼び合っているタツヤとヒトミは、コハルのためなら何でもします。


 オムツ替えや、下半身のマッサージ、季節を味わうための特製車いすでの散歩。

 身体が丈夫でないヒトミが床に就いている日は、仕事を済ませたタツヤが急いで帰宅し、炊事や洗濯など家事からコハルの世話まで、率先してこなしてくれます。


 コハルがまた、信じられないほど賢い子でして。

 オムツ替えのときシートの上に仰向けに寝かされると、自ら進んで不自由な脚をひろげ、父ちゃん母ちゃんの作業がやりやすいようにサポートしてくれるのです。


 ――なんと健気な。


 ときどき様子を見にやって来るおばあちゃんは、そのたび目を潤ませています。



 

                 💐



 

 今日は、コハルがタツヤとヒトミの子どもになって10年目の記念すべき日。

 誕生日がわからないコハルにとって「ハッピーバースデー!」でもあります。

 真っ赤な苺がぐるりに飾られた小ぶりのケーキに、小さなろうそくが10本。

 

 ――コハルちゃん うちの子記念日おめでとう!!!

 

 チョコレート板に記すフレーズを、ケーキ屋さんに頼んだのはおばあちゃん。

 郊外のまちのささやかな家で、とびっきり幸福なパーティが開かれています。


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