第13話 背きし子を門に待ちゐる秋の暮
店の仕事に忙しいかあさんの代理で、車で1時間ほどの病院に入院している叔父さんを見舞ったフジコは、付き添いの叔母さんから、はじめて聞かされたのです。
――あのころ、義兄さんは門の前で、フジコちゃんの帰りを待っていたよ。
あのころとは高校時代のこと。
そのころのフジコはやたらにむしゃくしゃしてならず、両親に反発し、図書館や公園で時間をつぶし、暗くなってから帰宅する、そんな日々をつづけていました。
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そんなフジコの身を案じた父が門の前でずっと待っていたなんて、わがまま娘に本気で腹を立てていた母親をはじめ、いままでだれも教えてくれなかったのです。
フジコは父が四十歳のときの初子でした。
幼いころはともかく、小学校へ上がると祖父と言ってもおかしくないような父が恥ずかしくてたまらなくなり、通学途中で会っても知らんぷりを通していました。
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その父は、フジコが二十歳になる前に亡くなりました。
最期の半年、忙しい母に替わり、病室に泊まり込んで看病したときも、フジコは育ててくれたことへの感謝や、心配をかけた詫びを一度も口にできませんでした。
ですから、叔母に告げられた事実は、フジコの胸をぐさっと鋭く抉ったのです。
――ごめんね、おとうさん。
いまさら言っても遅きに失しますが、いまなお不肖のむすめの行く末を見守ってくれている魂があるならば、きっと届くにちがいない、そう信じたいフジコです。
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