第12話 秋蝶に連山ひだを極めけり
秋が少しずつ深まったある日。
縮緬のように華麗なすがたを、
――空のかんざし。
と謳われる百日紅の花蜜を吸っていた黄色い蝶の個体がふと顔を上げてみると、東の空に連なる山並みが、いつの間にか、美しい茄子紺色に変わっていました。
遠く近くいく重にも重なる山々の襞も、くっきりした紺色を濃くしています。
☁
黄色い蝶の個体は長い触覚を動かしました。
――あなた、そのときが来たみたいですよ。
樹木の裏で花蜜を吸っていた別の個体が、
――そうか、バトンタッチは潔くせねばな。
百日紅にお礼を言ったふたつの個体は、何処へともなく飛び去って行きました。
あとになり先になりして舞い飛ぶうしろすがたが、少しばかりさびしそう……。
⛅
でも。
来年の春には、自然界の目立たないところに産みつけられた卵からふたつの個体によく似た個体が誕生し、春、夏、秋それぞれの季節を、思いきり謳歌するはず。
太古の昔から、連山はこうして数えきれないほどの個体を見守ってきたのです。
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