第10話 愛されて馬の余生や秋うらら


 

 

 

 怪我や加齢によって競走馬として使えなくなった馬は、ひそかに殺処分される。

 そんな酷い実態を知ってから、ミチルは居ても立ってもいられなくなりました。


 大学の乗馬部に所属していたときは、ただ乗るのが楽しくて、馬の行く末にまで関心がおよびませんでしたが、社会へ出て、それなりの苦労を重ねているうちに、


 ――そういえば、あの子はどうしているだろう。


 ふと思うようになり、同時に引退した競走馬の実態も知ることになったのです。


 

                 🏇


 

 人間のために尽くした末に、利用価値がなくなったらゴミのように捨てられる。


 いまを去る半世紀前、昭和48年に制定された民法が、一部を除き改正されないまま現在に適用されているので、犬、猫、馬などの動物たちはモノ扱いのまま。


 人と同じ痛みや感情を持つのに、そんなことが許されていいのでしょうか。(;_:)


 

                 🐎

 

 

 大学時代によく乗っていた馬のその後を調べてみると、年老いて学生の練習にも堪えられなくなったので、北海道は小樽の牧場に送られたことがわかりました。

 静かな環境でしばらく余生を送ったら、やはり殺処分されるのだそうです。


 

                 ✈


 

 その週末、ミチルは飛行機で小樽へ飛びました。

 骨も露わに痩せ、被毛の艶も褪せたハヤテが鼻を鳴らして迎えてくれました。


 ――ごめんね、ごめんね、ごめんね。


 ミチルはその太い首にすがって泣き、自分の薄情を何度も何度も詫びました。



                 💼


 

 それからミチルは、数か月に一度、小樽の牧場に飛んでいます。


 派遣社員の財布に飛行機代はかなりの負担になりますが、はるか遠くにミチルを見つけて全身で大喜びするハヤテの愛らしさがミチルの足どりを軽くしています。


 この牧場で穏やかな最期を迎えるまで、ミチルの遠距離デートはつづきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る