第8話 パレードの大太鼓の子秋暑し



 

 

 このまちを拠点にして国際的な音楽祭がスタートするという9月初旬の日曜日。


 市内の全中学校の吹奏楽部員が招集され、JRの駅前から城跡公園までのメインストリートを演奏しながら行進するという、プレイベントが開催されました。

 音楽好きな次女が出場するというので、朝から張りきって応援に出向いたアヤコですが、雲ひとつない快晴のもと、ジリジリ照りつける太陽が暑いのなんのって。

 

                 ☀

 

 市長や主宰者のなが~いあいさつが終わり、ようやく行進がはじまりましたが、千数百人の生徒が二列縦隊で行進というのですから、いっこうに埒があきません。

 すっかり待ちくたびれたころ、ようやく次女の中学がやって来ました。

 数十名中でひときわ華奢な次女の担当は、体格にそぐわない大太鼓でした。

 大き過ぎて足もとが見えないので、練習で転び、両膝に包帯を巻いています。

 ハラハラして見守っているアヤコの前を、一団は無事に通過していきました。

 

                 🌞

 

 全員が城跡公園に到着すると、またしてもここで来賓のなが~いあいさつ。

 ――この炎天下にいつまでも子どもを立たせたまま、いい加減にしてよね。

 母親はみんな同じ思いなのでしょう、気づかわしげに眉根を寄せています。


 さらにつぎは記念植樹とかで、麗々しく礼服に白手袋を付けた主宰者と市長などが丁寧になにかの木を植え、これまた長い時間をかけて何段にも並ばせた関係者の記念撮影で……その間、生徒たちはさえぎる一木もない広場に立ちっぱなしです。


 最後にまた駄目押しのように全中学の吹奏楽部員による演奏が行われ、ようやくのことで解散が告げられると、強烈な西日は早くも連山に傾きかけておりました。

 

            🎵      📯      ♬ 

 

 その後、市長の交替、税金をつかう莫大な経費への疑問、主宰者の老化などで、音楽祭のあり方自体が問われる状況に至っていますが、アヤコの胸にはあの猛烈に暑かった日、次女の細い肩にみっしり食いこんでいた大太鼓の圧倒的な存在感と、ドン、ドン、ドンと力強く打ち鳴らされる太鼓の音とが鮮明に刻まれています。

 

            ♫       🎸     🎶

 

 もっと体格のいい部員が大勢いたのに、なぜ小柄なむすめが選りによって。

 長年のアヤコの疑問にあっさり応えてくれたのは、音楽教師の友人でした。


 ――リズム感がよかったからじゃない?


 指揮者が見えない屋外パレードは、大太鼓がリードするのだそうで、内心で顧問教師を快く思っていなかったアヤコは、長年の誤解に冷や汗をかきました。<(_ _)>


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