第3話 チャイナドレスを着た鹿の顔の女

 ホムンクルスの女の夢を見た。顔は鹿。長いスラッとした手足。肌は色白。赤い柄のチャイナドレスを着ていた。


 その日の夜は、酔っ払って寝た。アルバイト先で大きなミスをして、「もう明日なんてどうにでもなれ!」とやけ酒をした。酔いに任せて眠った。目をつむり、暗闇に沈んでいくのをただ待っていた。そこに現れたのが、チャイナドレスを着た鹿の顔の女。まったくの意味不明。ただ女の眼差しはまっすぐ俺に向けられていた。白目のない、大きな黒目。瞳孔も開いていない、冷たい目がただ向けられていた。その女は漆黒をまとっていた。ただの置物のようにそこにずっと立っている。直利不動の鹿の顔をした女。


 友人の真司にこの話をした。ただ奇妙がるだけで何の解決にもならなかった。起きてからずっと、女の映像がリフレインされている。ふっと考えるのをやめた瞬間に女が現れる。そろそろ、もうやめにしてほしい。そんな思いを抱きながら一日を過ごした。その日は、夜の寝つきも悪かった。目をつむると、あの女が目の前に現れそうだった。女の冷たい眼差しを受けることがたまらなく嫌だった。


 暗闇に沈んでいくのが分かる。体中がジンジンする。どこか深いところへ落ちていく感覚だった。ああ、またあの女だ。色白の脚。赤いチャイナドレス。色白のスラッと伸びた手。顔は見えなかった。見えないというより、もともとなかったもののように漆黒なっていた。


 アラームの音で目が覚めた。体に気怠さを抱えたまま起き上がった。時間をみると7時だった。予定の起床時間より30分おそかった。鹿の女について考える暇もなく身支度をすませ、家を出た。


 きっと、鹿の女の眼差しは、他人に軽蔑されたくないという俺の不安を表していたのだろう。

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変な夢から人生訓 @TOSHI-TR

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