第9話

 結局パンフレットは就業時間後に届いた。俺と渡辺、そして白石さんの三人で会議室に運び込む。


「一枚三つ折りにして、二枚のチラシをつけ、一本のボールペンを入れて、この白い袋に入れてくれ」


「これを五千セットか」


 さすがの渡辺も顔が引きつっている。


「とにかく手を動かすしかありませんね! 私、こういう単純作業、けっこう好きです。頑張りましょう」


 白石さんのフォローに癒やされる。


「よし、とにかくやるしかない!」


 それからは、ひたすら地味な作業を続けた。三人で手分けして効率良くやってはいたが、量は一向に減らない。時間ばかりが過ぎ、俺は焦っていた。時刻は十時になろうとしていた。


「白石さん、悪いな。こんなに遅くまで」


「大丈夫ですよ。あ、私、差し入れを持ってきたんです」


「なあ、佐久間。俺は? 俺の心配は?」


「渡辺。俺がダメになった時は頼んだぞ」


「何だよ、それ!」

 

 話しかければ二人とも応えてくれるが、目が死んでいた。おそらく俺もだろう。これは消耗戦。大丈夫、あの途方もない分からないボス戦もきちんと終わった。じわじわ進めれば、終わるはずだ。


 すると、予期せぬことが起こった。


 会議室の照明が消えたのだ。


 突然真っ暗になり、白石さんが小さく悲鳴を上げる。


「しまった。俺たちに気づかず、誰かが閉館のスイッチを押したんだ。俺、下に行ってくる」


 立ち上がり、窓から入るわずかな明かりを頼りに会議室の入り口に向かった。ドアを開け、廊下に出ようとしたら、何かにぶつかった。


 人だ、突き飛ばしてしまった、倒れてしまう。そんなことが同時に頭に浮かんだ。とっさに俺は相手の腕を掴み、引き寄せた。相手は予想外に軽く、勢いあまり抱き寄せる形となってしまった。

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