第5話

◇◆◇◆◇◆◇◆


 ホノボノ食品の仕事は順調に進んでいた。見積書を出した後だったが、コストダウンした修正案を示すと林さんはとても喜んでくれた。うちの収益も増え、課長にも良い報告ができた。田中さんから引き継いだ他の業務もするよう、依頼された。仕事は増えたが、それほど手こずらなかった。


 要はコツを掴んだのだ。人は仕事をする上で無意識に癖がでる。田中さんが今までどのように資料を作り、どのように仕事を進めてきたかを完全に見切った後は、ただ踏み跡を補強していけば良い。もう一ヶ月もすれば、俺流にアレンジを加えられる。そうすればもっと仕事の効率は上がるし、採算も良くする自信がある。


「よう、人使いの悪いリーダーさん。これ、差し入れ」


 仕事に夢中になっていた。19時。気づくと事務所には俺と渡辺だけになっていた。渡辺は隣の席に無遠慮に座り、ファンシーな袋に入ったお菓子を差し出した。

 

「ん? あぁ、渡辺か。ありがとう。ってこれ手作りか? まさかお前が?」


「違う違う。なんで俺が会社に手作り菓子を持ってくるんだよ。白石さんが作ったんだってよ」


「白石さんが、、、?」


 嬉しいという気持ちと同時に妙な違和感を抱いた。そう、あまりにも似ているのだ。自宅でコツコツと進めているあのゲームに。


「何、見つめてるんだよ。言っとくけどな、佐久間にだけじゃないぞ。俺ももらった。というか俺は直接もらった。わざわざ給湯室に呼び出されて。その場で食べた。旨かった。おい、聞いてるのか?」


 不味い。いや、お菓子ではなく。この展開が。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 RPGゲームは終盤に差し掛かっていた。ストーリーも佳境といったところで、新たな展開を見せていた。なんと仲間だと思っていたハヤシが裏切ったのだ。


 ハヤシの助言の元、世界に散らばっているアイテム探す冒険に出た。いくつかの町を訪れ、敵を倒し、アイテムを手に入れていった。そして、最後、集めたアイテムを持ってハヤシに会いに行くと、それを持ってハヤシは魔王の元に行ってしまったのだ。


 魔王の名前はツバキ。


 俺が命名したわけではないが、自然と椿咲課長をイメージしていた。



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