空に走る

もりくぼの小隊

空に走る


 雨……お天気の?


 いい天気なのに窓に当たる雨粒。晴れの日差しの中で、雨が、走ってる。


 ――――狐の嫁入りっていうんだよね。お天気の雨ってさ。


 あの子は、つかさちゃんは得意気にそんな事を言っていた。あたしが、なんで狐が結婚すんのって疑問を口にすると。詞ちゃんは、少し考えるような難しい顔をして、またすぐにカラカラとした晴れた笑顔で笑っていた。


 ――――わっかんないやっ。なんかさ、お母さんから聞いた話だと、コンコンってお天気空から雨が降ってくるからなんだって。


 コンコンって雪じゃないのって言ったら


 ――――そうだよね、おっかしいよねっ、変なのねっ、なんでコンコンって雨降るんだろ?


 詞ちゃんはまたカラカラと笑っていた。


 ――――でもねでもねっ、狐の嫁入りってさ、虹が見えやすいんだってっ、キラキラって、光ってさ。すっごいキレイなんだってお母さん言ってたよ? ツカサもね、元気になったら絶対に、狐の嫁入りのコンコンな雨からキラキラな虹を見るんだ。ね、アオイちゃんも一緒に見ようよっ、キラキラな虹。



 真っ白な病院のベッドの上で詞ちゃんは両手を広げて凄く楽しそうに笑っていた。アタシもつられて笑ってた。すっごく……楽しかった。詞ちゃんとの思い出。



 でも……詞ちゃんは、もういない。悪い病気が……詞ちゃんを連れて行っちゃった。アタシは、わけわかんないくらい泣いて、泣いて、悲しくて、詞ちゃんがもういない事を受け入れたく無かった。



 後から、詞ちゃんのお母さんから、手紙を貰ったってお母さんから渡された。詞ちゃんが一生懸命書いてた手紙なんだよって。だけど、アタシ、読めない。これ読んじゃうと、もう会えないって、認めちゃう事になっちゃうから。アタシは、引き出しの奥に手紙をしまってしまった。



 それから、どのくらいの時間が経ったか、わからないけど、このお天気の雨が、詞ちゃんがなにか言ってくれてる気がして、引き出しの奥の手紙を、読もうと思った。恐る恐ると、可愛い封筒に入った一枚の手紙を開いた。


 そこに、書いてる言葉は。



 ――――アオイちゃん! 元気になってくださいっ! ビョーキには負けないぞ!!一緒にガンバ! ガンバ!――――



 詞ちゃんのくれた手紙、ポツポツ、涙が落ちて、汚しちゃった。でも、止まんないよ。

 自分だって、苦しかったのに、アタシのこと心配しちゃってさ、詞ちゃんは、諦めて無かったんだ。病気に、絶対一緒に勝つって、なのに、アタシ……アタシは。



 止まらない涙を何度も拭って、窓の外を見ると、空に虹が走ってるように見えた。一瞬で、見間違いかも知んなかったけど、それは天国の詞ちゃんがアタシに頑張れって、言ってくれてる気がした。




 コンコン――――病室の扉を叩く音がして、お母さんがお見舞いに来てくれた。


「葵、起きてて大丈夫?」


 ベッドから起きてるアタシを見てお母さんは心配そうな顔で側までかけよってくる。


 アタシは、お母さんに勇気を出して、伝えた。


「お母さん……アタシ、手術する」


 お母さんは、驚いて、涙いっぱいためてアタシを痛いくらい強く抱きしめた。





 ――――ね、絶対元気になる。だからね、一緒に、キラキラな虹を見ようね――――





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

空に走る もりくぼの小隊 @rasu-toru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ