第5話 夏と冬の訪問者

 小学校を卒業し、中学生になった。


 夏の夜、家族で居間でテレビをみていた。エアコンはつけておらず、窓が開いていた。


 母が窓の方を見て、「あっ!」と言った。

 見ると、網戸越しに白い犬が顔をのぞかせている。

 顔しか見えないが、その大きさや高さで、大きな体をしていることが想像できる。

 口を軽く開け、笑っているような表情をしている。

 こちらが気づくと、すぐその犬は去っていった。


 そして、私は高校生になる。

 雪こそ積もっていないが、とても寒い冬の頃。


 この日、私は学校が早く終わり、早めに家に帰っていた。

 家には母と私がいた。


 妹が慌てた様子で、家に入ってきた。

 「でかい犬おった!」と、おびえる妹。

 どんな犬か聞くと、白い犬でとにかく大きいということであった。

 我が家の前は庭と、車を停めるスペースが一体となって、まずまずの広さがある。

 どんな犬か見たい気もあったが、ドアを開けると飛び込んできそうな気がしてやめた。 


 少しして弟、夜になり父が帰ったが、二人とも犬を見なかったと言う。


 夕食も終わって一息ついていた時。

 玄関の方からドアを押す音が聞こえた。立て続けに音がする。そんなに大きな音ではないが、はっきり聞こえる。

 妹が見た犬に違いない、家族全員がそう思った。

 父が見にいくことになった。

 私は少し離れた所から見守った。


 父がドアをそっと開ける。


 すぐそこに白い大きな犬がいた。

 がっちりした体型、精悍せいかんな顔つき。紀州犬が最もイメージに近いだろうか。

 犬はおとなしくじっとしている。 

 父は軽く頭を撫でた。

 犬はおとなしくそれを受け入れている。

 私は様子を見守るばかりで、近づけなかった。


 父はドアを閉めた。


 すぐにまた、ドアを押す音が始まった。音に激しさはなく、どちらかというと控えめな音である。ドアに突進するというより、体をドアに当ててから押しているようである。


「放っといたら、そのうちどこか行くやろ」と、父は言った。

 そう言っている最中にも、犬はドアを押してくる。

 

 しばらく放っておくと、静かになった。

 ようやく去っていたかと思うと、またドアを押す音がする。


 私はドアの近くに立ち、犬が押し続けるドアを見つめた。

 寒い冬ということもあり、外にいる犬のことが気の毒になってくる。家の中に入れてあげようか。いや、それは怖くてできない。それなら毛布でも差し入れてやろうと思ったが、それもできなかった。


 いつしかドアを押す音がして、静かになる、の繰り返しに慣れてきた。

 ドアを押す音を聞きながら、その日は眠りについた。


 翌朝、私は一番に起きてドアを開けて外を見た。

 犬はいなかった。












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