第4話 豹変

 弟や近所の子をチロに会わせてみた。


 チロは喜びに満ちあふれ、近づく子、近づく子、みんなの足に抱きついた。抱きつく仕草がよほどおかしいのか、みんな声をあげて笑った。

 チロにとって抱きつくのは歓迎のあいさつのようなものだろう。


 それから別の日に同じメンバーで、チロとは別の犬の所を巡ってみた。

 どの犬も吠えなかったが、チロのように歓迎することはなかった。暇つぶしの相手が来たかと思っていたのかもしれない。


 お手をさせると、どの犬も反射的にお手をする。後は軽く触るぐらいで、犬の近くでたわいもない遊びをした。

 食パンをボウルに入れて与えると、首を振りながら、ものの3秒程度で食べつくす。そのすさまじい食べっぷりに、みんなで大笑いした。もう一枚与えると、またすぐ食べつくす。

 食パンは犬によってはアレルギーを起こすらしい。今は良くなかったと反省している。


 チロの所に毎日遊びに行っていたのが、飛び飛びになり、いつしか、しばらく途切れた。どれくらいの期間だっただろう。1ヵ月ぐらいだったかどうか? さすがに数か月ということはない。

 子供のことだから、別のことに興味を持ったのかもしれない。


 弟と久しぶりにチロに会うために空き地に行った。


 チロはいつものように小躍りして歓迎したが、ずいぶん大きくなっていた。近所の柴犬より大きい。

 会わなかった期間が、ちょうど子犬の成長期にあたったのだろう。

 たれぎみだった耳が立っていた。


 チロに近づこうとするができない。


 触ることができず、チロの周りをまわる例の遊びをしてみた。

 チロはいつものようにぐるぐる周り、ひもが支柱に巻きついて動けなくなった。無邪気な顔でこちらを見つめるチロ。

 反対回りに周って、紐をほどいてあげた。

 

 チロの姿を見て、大きいということだけで怖がってしまった。

 ただ、なぜあのチロに? あれだけ触れ合ったチロに?

 チロは体こそ大きくなったものの、いつもと変わらず歓迎していたのだ。

 

 あの時、一歩踏み出せたらと思う。

 そうすれば、チロは私の足に抱きつき、また、いつものように遊んだだろう。


 この日を境にチロに会いにいくことはなかった。

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