第3話 飼い主あらわる

 学校から帰り、空き地のチロの元に行く。


 最初によくする遊びがあった。

 支柱にひもでつながれているチロの周りをまわると、チロもこちらを追いかけてまわる。紐が支柱に巻き付いていき、しまいにチロは動けなくなる。

 今度は反対回りに回って、紐をほどいて動けるようにする。


 チロを支柱から解き放って、追いかけっこをすることもしばしば。広い空き地に川、天然のドッグランだ。

 

 チロを連れてすぐ近くの川に入ろうとした時、首をすくめて抵抗された。チロの口が固く閉じている。ちょっと無理気味に引っ張り、足先が濡れる程度の浅い所を少し歩いた。

 まだ水に慣れていず、怖かったのかもしれない。子供ながら悪いことをしたと思い、それ以来、川歩きはしなかった。


 いつものように空き地でチロと遊んでいる時、70歳前後のお婆ちゃんがあらわれた。学校の行き帰りにたまに見かけるお婆ちゃんだ。

 こちらに向かってきて、お婆ちゃんは意外な一言を言った。


「飼いたかったら、飼ってもいいよ」

 

 驚きのすぐ後に嬉しさがこみ上げてきた。

 チロを飼えたら、どんなに楽しいだろう。足取りも軽く、家に帰った。


 早速、飼ってもいいと言われたこと、飼いたいことを親に伝えたが、飼うことはできなかった。他の家の犬でもあるし、色々事情はあったと思う。


 飼い主のお婆ちゃんは、私がチロと遊んでいる様子をどこかで見守っていたのだろう。

 飼ってもいい、と言ってくれたお婆ちゃんの優しさに心から感謝したい。












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