カリンの想い

 ルッダには、毎日のように会いに行った。

 研究所の周りは相変わらず生えすぎた草木で埋もれていた。

 カリンの肉体に残留した、彼女の強大な魔力の一部のせいだと思われる。

 そのおかげもあるのか、誰も二人の入れ替わりに気づく者はいなかった。


 カリンは、自分が搾取されていることを知っていた。話せばルッダが怒ることは目に見えていたから、黙っていた。

 そのままで良かった。研究所に来てから、身体が楽になったのだ。自分で使えもしない魔力を役立ててもらって、ここに置いてもらえるのだから、むしろ幸せなことだった。

 研究員達は皆優しく、両親のように邪魔者扱いしなかった。ルッダといて、それだけで十分だった。


 起きたことを受け入れるのが辛かったが、塞ぎこんでもいられない。

 

 何故、ルッダは封印したんだろう。入れ替わる計画しか聞いていない。

 あの水晶のようなものは、何なのか。

 どうすれば、解放できるのか。

 一番の解決法は彼女に自分で封印を解いてもらうことだが、ただ呼びかけても反応はなく、声は届いていないようだった。

 私が何とかするしかない。

 でも、私は、魔術について知らないことが多すぎる。

 カリンは、それまで魔力を意識的に使ったことがほとんど無かった。苦痛を伴うこと、臥せっていて学習の機会がほとんど無かったことが原因である。


 カリンは、本を読んだ。そして、実際に魔力を使ってもみた。奇しくも、その行動は以前のルッダと同じものだった。

 封印については依然として謎だったが、わかったことがあった。

 力を使う時の感覚が、研究所で魔力を搾取された時に感じたものによく似ているのである。

 これまでカリンを衰弱させていた原因を突き止めたと確信した。 


 カリンの苦しみは、自身の魔力のせいだった。肉体という器に対して、余りにも強大過ぎたのだ。

 身体の内に閉じ込められた自身の力に、カリンは徐々に食い潰されていた。

 それが、ルッダという頑丈な器に変わったことで、力をコントロールできるようになった。出力を調整し、正しい作用を覚えることができた。

 もしかしたら、元の身体に戻っても、うまくやれるかもしれない。衰弱を止めて、回復することができるかもしれない。そんな希望がわいた。


 後は、封印を解くだけだ。

 正しい方法は見つけられなかったが、試してみたいと思うことがあった。

 自分の魔術の技量が上がっていくにつれて、結晶を見る度に、のである。

 様々な物質に魔力を作用させ、操る練習をするほど、その思いは強くなっていった。

 もう少し修練を積みたいところであったが、肉体の限界がきているのを感じていた。


 広がっていく傷が術の代償や寄生花のせいではなく、入れ替わりによるルッダの身体の拒否反応であることを、この時のカリンは知る由もなかった。

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