決意

 熱いシャワーを浴びた。

 染みるが、我慢した。

 タオルで身体を拭きながら、鏡を見る。

 顔の左半分が崩れている。

 オジーが心配するのも無理はない。ひどいものだ。

 悲しい気持ちになる。

 見た目は似ていなくとも、滑らかな肌だけは二人とも同じだったのに。

 左の頬がじくじくと痛む。

 あの時タモンにつけられた傷だ。あれから、治るどころかどんどん化膿が広がって、今は腕にまできている。小さな緑色の瘤までできていた。

 傷をつけたのはタモンだが、治癒しないのは、自分のせいだと思っていた。

 あんなことをしたから。大きな魔術には代償が必要であると本で読んだ。術を解かない限り、これは治らないのだろう。


 誰にも相談できない。

 昔は、二人でいつも相談していたのに。


 子供の頃は、どんなことを話していただろう。

 カリンは身体が弱くて家で退屈していたので、ルッダがよく友達から絵物語を借りてきて見せた。

 カリンは夢中になって読んでいた。

 特に、自分と同じ年頃の女の子達が活躍する話が大好きだった。

 ルッダの好みはカリンとは少し違ったが、冒険物は好きだったので、二人でよく同じ物語の感想を言い合った。

 ある日、ルッダの友達が、もういらないから、と双子が主役の本をくれた。古い作品で、あまり人気も出ずに一巻しか発売されず、続きも出なかったものらしい。

 昔は不人気だったのかもしれないが、古いからこそ馴染みがないストーリーで新鮮に感じた。

 自分達と重ね合わせて、ルッダもカリンも、ボロボロになるほど何回も読んだ。

 今でもセリフの一つ一つまで思い出せる。

 お気に入りの本だったのに、追い出された家に忘れてきてしまった。きっともう捨てられているだろう。


 身体の左半分が痛い。回想の途中で我に帰る。これからの事を考えなければならないのに、すぐに違うことに意識が行ってしまう。


 封印を解くと、カリンの身体は衰弱していく。

 だが、これ以上は、ルッダの身体の方が壊れてしまう。

 ならどうすれば良いか。

 ずっと考えていることがあった。

 試してみるより他無かった。

 そのために、自分なりにできるだけのことはした。

 もし失敗してしまったら。

 彼女は、許してくれるだろうか。

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