成長

 タモンの話は何もかも違った。

 ルッダは屋敷には住まわせてもらえず、街の外れの小さな家をあてがわれた。

 精密検査をする、と称してカリンが連れて行かれた真っ白い建物は、病院ではないように思えた。事実、そうではなかった。

「嫌だ、何で、一人は嫌だ!ルッダも!」

 当然カリンは精一杯抵抗した、ルッダもタモンに抗議した。

「治療のため」の一点張りで捩じ伏せられた。治すために、先ずカリンの身体を検査して調べなければならないのだと。

 面会は認められた。

 まだ子供だった二人は、自分達の自由を手に入れる方法がわからなかった。何ができるのかも知らなかった。研究員や屋敷の従業員達は両親よりは優しく、まともに見えたので、今はこれで我慢しようと自分達を納得させた。

 カリンが、元気になるまでの辛抱だ。

 研究所は、次の日には草や木々に覆われてしまっていた。


 カリンの看病をしなくて済むようになって空いた時間に、ルッダは勉強をするようになった。森の住人エルフの血を引いていながら、花の名前一つ、両親は教えてくれなかった。どれだけ強い魔力を持っていても、同じ年の同族の子よりも、魔術で操れる植物が極端に少ない自分が悔しかった。魔力を作用させるには、それなりの知識や技術がいる。学校ではそこまで専門的なことは学べなかった。進学できていたら違ったのかもしれない。

 本を読み、時には街から遠く離れた人気の無い森の奥や湖で、魔術の練習をした。

 力のコントロールが上手くいかず、辺りを火の海にしかけたことは一度や二度ではなかった。


 親に取り上げられなくなった分、ルッダの手元には少しお金が残るようになってきた。家賃や光熱費を差し引いても。カリンの入院費は何故か不問にされていた。

 自由になるお金で、ルッダはいくつも本を買った。

 時に研究所にも持ち込んで、カリンにも貸してやった。

 外に出られないカリンはいつもとびきり喜んだ。身体に障るほどに。

 カリンの身体は良くはならなかった。

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