策略
汗をびっしょりとかいていた。
何度も、あの時の夢を見る。
「カリン」
どんな声で、自分を呼んでくれていたのか。
思い出は取り出し過ぎて、擦りきれて、かすれていく。
消えてなくなってしまうのではないか。
両親はバカだった。
タモンにあっさりと双子を売った。
家から追い出された日、父も母も上機嫌でニコニコしていた。
「もうアンタも看病なんかしなくてすむんよ。しっかり働きなさいよ。」
「お前はカリンよりも丈夫で働き者だもんなあ。俺達の自慢の子供だ。」
タモンが家に来た日。
すぐには中に入らず、家の周りをゆっくりと見て歩き、納得したように何度も頷いていた。
突然の訪問に両親は驚いていたが、タモンの提案をすぐに受け入れた。
タモンは、ルッダがよく働いてくれること、どれだけ業績を上げてくれているかから話しだし、
つきましては、幹部候補として取り立てたいんで、ウチで引き取らせてもらえませんかねえ。住み込みで、現場だけでなく是非経営についても勉強してもらいたいんですよ。
双子の妹さんをそりゃ心配してよく面倒をみているとお聞きしました。ええ、ええ。
ウチの懇意にしている病院に入院してもらっても良いんですよ。カリンちゃんと言うんですね。しっかり検査をして、元気になろうね、カリンちゃん。
入院費?月々の給料から、少しずつ。
ええ、ええ。稼ぎ手がいなくなったら困りますものね。わかっております。これはもう、将来性を見込んだ契約金ということで。はい。もう、持ってきております。後程、同額を入金させますのでね。
両親はバカだった。怠惰に暮らし、後先を考えるということを知らない。目の前の現金を見て、快諾した。
それはルッダの月々の稼ぎの数倍程の金額だったが、それを使い果たした後はどうするつもりだったのだろう。
カリンの存在が煩わしかったとしても、ルッダを手元に置いて搾取し続ける方が長い目で見て得だっただろうに。そんな計算すらできない。
家を出て、両親とはそれきりだった。
契約金を使い果たした頃に、父親が金をせびりに屋敷に来たことがあったらしい。子供の給料を寄越せと。
強面の従業員が凄むと、大人しくなったそうだ。
バカで怠惰な両親には、それで充分だった。
しかるべき機関に相談するなりの行動を起こす気力も頭もなかったようだ。
ルッダとカリンは、最初はタモンに感謝していた。
薄情でろくにカリンを病院に連れていってもくれない両親と暮らすよりも、うさんくさくてもこの男に頼る方がマシだと思っていた。
カリンを入院させてくれるという話も、信じていた。
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