幼いカリン

 魔力、というものがある。

 火に強く作用すればマッチ一本で森を焼け尽くし、水に強く作用すれば海が割れた。

 歌声に魔力をこめることによって、知性の無い動物の動きを誘導することもできる。

 作用する対象を、意のままに操ることができる力である。

 世界の中でも、森の住人エルフと呼ばれる種族が特に強い魔力を持っていた。爪も牙も持たない彼らが生きていけたのは、魔力のおかげに他ならない。

 とはいえ、森を焼き払い川を氾濫させるほどの力を持つ者は、エルフの中でも稀だった。

 主に、身体強化や食料の収穫・動物達との共存に使われるようなものだった。

 種族が成熟していくにつれて彼らは森を出て、他の種族達と国を作り、街で暮らすようになる。


 ルッダとカリンは、双子のエルフである。


 一族の中でも、稀に現れる、強い魔力を秘めた二人だった。

 とりわけ、カリンは。


 両親は、バカだった。後先を考えることが苦手な、どうしようもない奴等だった。

 怠惰に過ごし、手持ちの金が無くなると日雇いの仕事をして日銭を稼ぐ暮らしをしていた。

 双子が生まれてからもそれは変わらなかった。無事に成長できたのは、カリンの魔力のおかげだった。

 赤ん坊の時は、カリンが泣くと、周りの大人達は魅了され、世話をせずにいられなかった。カリンの隣に常にいたルッダも、ついでに面倒をみてもらえた。


 ただ、カリンは強い魔力がありながらも、身体はとても弱かった。しょっちゅう高熱を出し、貧血を起こし、少し動いただけで息が苦しくなるようだった。成長も遅く、身体が小さい。

 年を取るにつれて健康状態は悪くなっていき、12歳を越える頃には寝たきりに近くなっていた。

 カリンが衰弱していくのに反して、彼女の部屋の近くの植物は異常なスピードで成長していった。


 引き換えルッダは強い魔力が特に身体能力に作用し、すくすくと成長していった。

 ケガは瞬く間に治癒し、病気にかかったこともなかった。力仕事も、大鬼顔負けだった。


 二人が15歳になる頃には、大きなルッダと小さなカリンが並ぶと、親子のようだった。

 それでも、二人はとても仲が良かった。

 一緒に歌をうたい、果物を分けあった。カリンが嫌いな先生の真似をするのが上手くて、ルッダが大声で笑ったこともある。


 両親は本当にバカだった。

 動けなくなってきたカリンが邪魔だという態度を隠そうともしなかった。

 カリンの世話はルッダがしていた。


 15歳は、大人に混じって働ける年齢だった。

 両親は、ルッダに働いて金を家に入れろと命じた。身体の頑丈なルッダは、昼間は開拓部隊の整地の仕事をし、夜はカリンの面倒を見る生活をすることになった。


 タモンの下で働き出してしばらく経ったある日、タモンが直々に家にやってきた。

 ルッダの仕事ぶりは有能ではあったが、企業のトップがわざわざ出向く用件に、その時は家族の誰も思い当たらなかった。

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