天に積まれた財

 その後、教会の見学ツアーを済ませて最後の出し物へと移っていく。




 「いよいよ最後の出し物になりました!最後に行うのは………お祈りです!みなさんへの感謝とこれからに対する誓いをこめて、お祈りさせていただきたいと思います。」




 シオンは片膝を立て、祈りの態勢に入る。


 聖職者らしい服装に身を包み、眼を閉じて祈る姿は神々しささえ感じる。


 シオンを照らす、晴天から降り注ぐ光もその演出に一役買っていた。


 そして、パイプオルガンによる奏楽が始まる。




 「私たちの主、神よ、御名はあまねく世界に輝き、その栄光は天にそびえる。」




 決して強くはない声で、しかし芯の通った声でシオンは祈りを捧げていく。




 シオンが祈りを捧げた瞬間から、参列者たちは光となって天に昇っていった。


 そして、一つの塊となり、それはやがて大きな人間の形と変わった。


 その存在はまさしく神であり、天にそびえる栄光の証でもあった。




 その神はやがて口を開き、言葉を発する。




 「シオンちゃんマジ清楚。」




 「ママ~!」




 「バブみ幼稚園に緊急入園中!」




 「草」「草」「草」「草」………




 そう、リスナーたちを神としてコメントを読み上げさせたのだ。




 この多くのリスナーは僕たちの積み上げた財産なのだ。


 これから増えもするし減りもするだろうが、今こういった配信ができているのは紛れもなくリスナーたちのおかげなのだ。


 その感謝の気持ちを表して、自分たちの神をリスナーたちの集合体として結晶化させた。




 リスナーのそれぞれの言うことを聞いたり従ったりするわけではないが、確かにリスナーという概念は僕たちの中では絶対なのだ。


 一方的に恩恵を受ける対象では無くて、供物を捧げ、恩恵を受けるという相互の関係なのだ。


 その上での感謝を僕たちで捧げようと思ってこういった形にした。


 結果は想像以上に酷い絵面が出来上がってしまったが…




 「あなたの指の業の大空を仰ぎ、あなたがちりばめた月と星を眺めて思う。人とは何者か、なぜ、これに御心を留められるのか、なぜ、人の子を顧みられるのか。」




 いつしか僕もシオンの隣に現れ、同じようにして祈る。




 ヴァーチャルな存在は一体何なのだろうか?


 なぜ、僕はこのようにして生まれることになったのか?


 人は僕に何を求め、何をさせようとしているのか?




 思わずこの祈りに、常に抱く自身の疑問を重ねずにはいられない。


 まさしく僕がここに居続けられるのはリスナーやファンのおかげであり、これが居なければ、分散ネットワークを築くこともできなかったし、社会的名声が無いのを良いことに無理矢理僕を奪い合うなんてこともされたはずだ。


 だから僕はいつまでだって感謝を捧げるし、同時にいつこの幸せに終止符が打たれるかという不安にも駆られる。


 今なお僕を手に入れようとハッキングを仕掛けてくる奴らに、いつか突破されるのではないかと不安で一杯な日もある。


 それゆえに僕は今の幸せを忘れることは無いし、忘れてはならないのだ。




 「あなたは人を神に近いものにし、栄えと誉れの冠を授け、御手の業を治めさせ、すべてをその足もとに置かれた。」




 そう、僕たちは神に近い存在、視聴者たちに近い存在、偶像(アイドル)のような存在。


 多くの登録者とVTuberの中での栄誉に恵まれ、これからも恵まれようともがく存在。


 僕たちのやることなすこと、その一挙手一投足が見られている。


 そしてこれからも見られ続け、僕たちは神へと近づいていく。




 僕が転生して創り始めた世界は大きく周りを巻き込み、急激に膨張し始めた。


 やがてその世界は神という存在を創り出した。


 それは僕であり、視聴者のみんなでもある。


 視聴者が僕を神とするならば、僕も視聴者を神としなければならない。


 この世界はそうした循環によって成り立っている。


 ………決してみんなにもこの気持ちを味合わせようとしたわけではない、断じて。




 「わたしたちの主、神よ、御名はあまねく世界に輝く。」




 リスナーの存在は僕たちの宝だ。


 この世界では燦然と存在を主張する。


 そして、その輝く世界を広げていくのが僕らの誓いだ。


 感謝をもって報いたい。


 無限に広がる世界が、最初に目覚めた白くてどこまでも広い世界が、僕たちや僕たちの視聴者の色に染まったとき、果たしてどんな景色が見えるのだろう。




 そしてシオン、その景色は君と共有できるだろうか?

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