なろう系リスナー
「何ヤラ嫌ナ気配ガスルト思ッタラ、コンナトコロデ聖女ガ儀式ヲ行ッテイタノカ。」
ぶち抜かれた教会の天井にできた黒い影から異形の存在が出てきて喋る。
その声はどこかノイズがかったような不快感を覚えるものであり、その不気味さに拍車をかけている。
異形の姿と表現したが、その姿を具体的に表すとしたら悪魔かクトゥルフの神だ。
その恐ろしい外見からは存在の強力さは計り知れないものである。
「儀式ヲ完遂サレル前二潰ストシヨウ。無力ナ者タチヨ、我二屈服セヨ。」
異形の存在が不穏な言葉を放ちつつ、邪悪な気配を放ちながらシオンに向かって触手を伸ばす。
いつしか青空は汚染され、瘴気の濃さがよく分かるほどに暗闇が天を閉ざしていた。
そして、シオンに触手が近づいて教会の中に侵入してこようとしたとき、それは起こった。
「ウ゛オ゛オ゛!!ナンダコノ聖ナル力ハ!!全ク侵入デキナイゾ!!」
そう、参列者の放つ祝福の魔法によって異形の触手は教会に侵入することができなかったのだ。
多くのコメントによって生み出された大量の魔法がその侵入を拒み続けていた。
そしてしばらくそのせめぎ合いが拮抗する。
「グウ゛ウ゛ウ゛!コウナレバ一旦引クシカナイカ…!覚エテイロ!」
ついに、いつまでも侵入できない予想外の事態に業を煮やした異形の存在が退却しようとしたとき、追い打ちが襲い掛かった。
特殊アニメーションが流れ始める。
「เสาแห่งแสง!เสาแห่งแสงปกป้องไซอัน!!」
例のタイ語の魔法だ。
赤スパの光の柱が何本も突き刺さった。
異形の存在をめった刺しにしていく。
見る見るうちに弱っていった。
「GUWAAAAAAAA!!!!!!!セイゼイ覚エテイルガイイッ!第2第3ノ我ガオ前タチ二襲イッ…!!」
そこまで言って逃げようとしたところで光の柱が消し飛ばした。
空は元の青さを取り戻し、何事もなかったかのような明るさをしていた。
「また私何かやらかしましたか?」
タイ語で魔法を打っていた人がコメントする。
すかさずチャット欄は「タイ語ニキ日本語喋れたんかよ!」「なろう系タイ語ニキ…」「タイ語ニキマジ強い…」とタイ語ニキの話題で盛り上がった。
「人が独りでいるのはよくない。彼に合う助ける者を造ろう。」
一方でシオンは全く表情を変えず淡々と聖書を読み進めていた。
あまりにもその動じなさに「シオン様やべえ…」「シオンちゃんに踏まれたい…」と感嘆やその他のコメントが流れていく。
二つ目のコメントはやめなさい…
そして、興奮冷めやらず盛り上がる中にさらなる燃料が投下される。
「奴ノ気配ガ消エタノハ場所カ…」
「所詮奴ハ最弱ダガ見逃ス訳ニハイカナイナ。」
「見ロ、ココデ聖女ガ儀式ヲ行ッテイルゾ。原因ハコレノヨウダ。」
「マサカコノヨウナ者タチ二敗北スルトハナ、落チブレタモノダナ。」
先ほどの存在が大量に空に現れる。
空は真っ黒に汚染され、瘴気が先ほどとは比べ物にならないほどに濃く漂う。
闇に包まれた中教会だけが光り、夜に取り残されたようである。
そして大量の異形の内一体が口を開く。
「サッサト片付ケテ____
教会にとどまっていた光が一気に膨張した。
そして、膨張した光は上空を埋め尽くす闇をすべて飲み込み、泡となって弾けた。
弾けた光は細かい雨となって教会の中に降り注ぐ。
降り注いだ光は参列者たちに溶けてそれぞれを照らしていく。
そして、参列者たちは一斉に口を開く。
「また私何かやらかしちゃいました?」
ほんと息揃ってるなおい。
そしてシオンも丁度朗読が終わり、顔を上げる。
一瞬驚きに目を見開き、その後すぐに笑顔に切り替わって口を開いた。
「あれ?皆さんどうしたんですか?光り輝いてますよ?………ああ!聖書朗読のおかげですね!さっそく効果が出てよかったです!」
そのあまりに無垢な笑顔に視聴者たちは毒気を抜かれたようで、チャット欄は「癒しだ…」「ママぁ~ママ!」「Kawaii」といったコメントが続々と流れていった。
おい!ママはやめろ!お前のママじゃないんだぞ!
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