創世記

 「まずは聖書朗読です。朗読中、思いつく限りの祝福の魔法をコメントで打っていってください。それによって何かが起こるかもしれません。スーパーチャットで送ってくださる方の魔法はエフェクトが派手になります。どのくらい派手になるかは見てみてのお楽しみです。」




 シオンが説明を続けていく。


 ここら辺は前の僕の配信でもやったことだし、みんな予想していたことだろう。


 むしろ敵がいなくて戦わない分こちらの方が物足りないと思っているかもしれない。




 しかし、僕たちはその予想の範疇にいるつもりなどさらさらない。




 「はじめに神は天と地を創られた。地は混沌としていて何もなく、闇が深淵の表を覆っていた。神の霊が水面を漂っていた。神は言われた『光あれ!』と。そして、光があった。」




 シオンが創世記の第1章を朗読し始める。


 あまりにも有名な旧約聖書の始まりだ。


 神がどうやって世界を創ったのかということを記した箇所であり、その簡潔な文章は崇高体として後世の文学作品に多大な影響を与えた。




 そしてシオン自体が光り始める。


 その神々しさに、誰もが目を奪われ始める。


 Twitterでは「演出の凝り方すごいし、シオンちゃんはガチモンの清楚や…!」と称賛する声が目立ち始めて拡散されていく。




 一方でチャット欄ではみんなが一心不乱に魔法名をコメントしている。




 「ビュル・アルカンシエル!虹色に輝く水泡がシオン様を祝福する!」




 「アンジェルス・カンティクム!シオンちゃんの頭上を天使の詩(うた)が駆け巡る!」




 「เสาแห่งแสง!เสาแห่งแสงปกป้องไซอัน!!」




 「て、てて、天使の羽っ!天使の羽がシオンちゃんの周囲を飾ります!」




 おかげで、シオンの周囲はとても賑やかだ。


 参列者が両手を掲げ、魔法名を唱えている様子は壮観だろう。




 今回スパチャで書いてくれた魔法は、サイズが大きくなるように設定した。


 そして、なんと赤スパ以上は固有のアニメーションを付けるようにした。


 タイ語の赤スパが飛んできたときは、翻訳機が機能しているのか何度も確認する羽目になったが…


 光の柱がシオンを守護するという意味だったらしく、巨大な光の柱が教会の天井をぶち抜き、青空を曝すという演出にした。


 おかげで「タイ語ニキやりすぎだろ…」というコメントがよく見られるようになったが。




 嬉しい誤算はこれのおかげで、各国語で参加する人が増え、海外色も強くなったということだ。


 元々翻訳は同時で全世界のものに対応させていたが、海外リスナーがそれに気づいてくれるようになって拡散してくれたのだ。


 他のVTuberの配信では中々見られない、アラビア語なども現れるようになり、一気に海外進出に成功したVTuberのトップ層に躍り出ることができた。




 「産めよ、増えよ、地に満ちて地を従わせよ。海の魚、空の鳥、地の上を這う生き物全てを支配せよ。」




 そしてシオンはなんの反応もせずに淡々と読み進めて行く。


 ここまでくると、視聴者の中にこの箇所を朗読する意図を考察する者が現れ始める。




 「そうか!レイフとシオンでアダムとイブの役割なんだ!彼らの子孫が今の我々という聖書の話を持って来て、VTuberの世界を支配する宣言なんじゃないか!?」




 そのコメントに「考察厨助かる」といったコメントが流れ始める。


 Twitterも共有され、大きく面白がられて取り上げられ始める。


 内容がまさに今のVTuber界に対する宣戦布告だと捉えられるからだ。


 既存の企業や個人勢に対してポット出の会社が全員従えると宣言しているようなものであり、それがこれからどうなっていくのかという視聴者のワクワク感を掻き立てていく。


 既に1期生の募集も始まっており、フェイク=リベリオン・ファミリーというヤクザチックな名前からも、野心が覗えそうだとのことらしい。




 ----まあ、そこまで思ってなかったんですがね。


 新しい箱を創るという意味合いのつもりで言っただけで、他社に喧嘩を売るつもりまでは無かったのだ。


 もちろん業界を牛耳れる存在にはなるつもりではいたが、傘下になれとまでは思っていない。




 「困った…」




 他社からクレームなど入れられないだろうか…?


 困りながら、そして嫌な予感をさせながらも次の演出に移るべくシーンを追加する。




 シオンは依然淡々と読み上げていた。




 と、突如としてシオンの頭上に黒い影が現れる。

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