貴族の教養

 シオンの収益化記念配信も無事終わり、次の催しの準備に移る。


 そう、格付けチェックだ。




 「格付けチェック」と聞くと、毎年正月に行われる人気テレビ番組を思い浮かべる人も多いことだろう。


 番組内では、本物と偽物が同時に出され、本物を見極められるか?という条件で出演者の格付けが行われる。


 毎回全問正解する強者もおり、そういった無双する姿を楽しめる要素も用意されている。




 しかし、僕たちの場合はそういったタイプの企画にはしない。


 事前の告知でも言った通り、競技として格付けを行うのだ。


 例えばブランド名を答えるだとか、価格帯の上下を順番に並べるといったレベルの問題が出題される。


 普通に暮らしていれば分からないレベルの問題を、次々に正解していく人たちの争いを見せるエンターテインメント、つまりこれはスポーツなのだ。


 


 ただ、懸念材料を一つ挙げるとするならば、飲食の類の問題は工夫が必要だということだろう。


 何しろ今の僕には飲食ができないのだ。


 全く飲食に関わる問題を出さないか、出来レースをするにしてもどうにか魅せることができるようにしないといけない。




 「とりあえず、服飾品、テーブルコーディネート、礼儀作法、音楽、絵画、詩、歴史、語学といったところは出すべきところだな。」




 いわゆる教養と呼ばれる分野だ。


 教養と呼ばれる分野はとりわけ扱いが難しく、日本人にとっては大学で学ぶ一般教養科目を思い浮かべる人も多いだろう。


 一般教養科目とは人文科学・社会科学・自然科学に関する基礎教養のことであり、学年が進んで学んでいく専門科目の前提となる知識を身に着けるためのものである。




 確かに「教養」と呼んで差支えの無いものではあるのだが、格付けチェックの問題で線形代数や化学式など、自然科学に関連するものが出されるのは、少し不自然に感じてしまう。


 これは、格付けチェックが貴族社会で生きていくための教養というものを前提にしているためであり、会話や食事、外見、作法などによって相手に不快感を与えないための振る舞いが、どの程度身についているかを測ることを目的としているためである。




 自然科学分野を専門的に学ぶ者同士以外の会話の中で、高度な内容の自然科学にまつわる話は中々見られない。


 ノーベル賞の話題になって、医学や物理化学の受賞者の経歴の話にはなっても、その受賞内容の原理の詳細な説明を求められることはほとんど無いだろう。


 自然科学分野の発展が著しい現代において、プログラミングが教養化し始めているように、これからは変わってくるのかもしれないが、今の時点では貴族階級の教養とはみなされないのだ。




 じゃあ、何が具体的に貴族階級の教養とみなされるのかと疑問に思うことだろう。


 この答えは、貴族たちが成長していく過程で学ぶものに着目すると、簡単に見つけることができる。


 僕たちフェイク=リベリオン家はイギリス貴族という設定のため、イギリス貴族がどういう幼少期を過ごすかということを参考にする。




 一般的に、イギリス貴族はボーディング・スクールもしくはフィニッシング・スクールと言われる学校で、日本での中学から高校にあたる期間を学びに費やす。


 主に前者は男子のための学校であり、後者は女子のためのものである。


 ボーディング・スクールの代表的な存在は、有名なイートン校であり、僕の出身校と言う設定の学校だ。




 これらの学校で学ぶことは、大学進学のための教養の他に、「社交的なお付き合いのために必要な文化的な教養」が重視される。


 つまりこれらが、僕たちが貴族階級の教養と認識するものの正体なのだ。




 二つの学舎で共通して勉強させられることは、料理、文学、芸術、音楽、歴史やマナー、プロトコール、社交術であり、前半は会話の中身に関するもの、後半は会話を行う上での振る舞いといったものだ。


 もちろん料理については、男性側が良し悪しの判別、女性側が作り方に重点を置いて教えられるのだが。




 今回はあくまで判別が主体のエンターテインメントであり、社交上必要な服飾やテーブル上のものの良し悪しの判別を含めた問題を作っていくのが無難だろう。




 「よし、これで行こう。魅せ方も大体決まった。」




 大体方針も決まり、配信準備をさっさと整えていった。

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