なろう系主人公
「~~~ッ!………プッ!」
目の前で詩音が笑いをこらえようとして、耐えきれずに吹き出している。
詩音の目の前にはTwitterや掲示板を表示するウィンドウが開かれており、それをスクロールしていく度、詩音は表情を歪めていく。
ほんと僕のいないところでやって欲しい…
詩音が見ているTwitterや掲示板の内容は昨日の僕の配信に対する反応のものだ。
大体が「もはや化け物では無く神だ」とか「神がこの世界に降臨された」とかよく分からない祀り上げられ方をしている一方で、僕のアンチスレでは僕に対する嫌悪感が一層増しているようだ。
「絶対やらせ」だとか「あそこまで調子に乗ってるなら暴いてやろうぜ」と今にも動いていそうな言葉が飛び交っている。
マッチング履歴など検索しようもないし、IDを公開していない以上僕を特定することさえ不可能だ。
相手側も同様である。
時間を指定してそこで行われた対局の棋譜だけでも検索することができれば分かるかもしれないが、残念ながらそのようなことはできない。
完璧に隠蔽しているのだ。
まあそもそも僕の存在自体がチートであることは間違いないので、これ以上のチートをする意味がない。
普通の人間が、どうやって人間にはできないと思われるような行為をできるかと試みているのに対し、僕のやっていることは、どうやって人間らしい行動をとれるかという真逆の試みなのだ。
この試みはチートを使っていないと思われて初めて完成する。
ゆえにボロをいかに出さないかと言うところが、一番力を入れるべき点なのだ。
簡単に暴かれなくて当たり前である。
「~~~ッ!!!!!」
そんなことを考えていると、詩音が耐えきれなくなったのか涙目で机をバンバン叩き始める。
はあ…
「頼むから僕の目の前でやめてくれないか?」
思わず詩音にお願いする。
詩音は目じりから零れる涙を拭いながら口を開いた。
「ごめんごめん、あまりにも面白くて。だってレイフ君が神って言われてるのが耐えられないんだもん…ッ!」
「言った傍から吹き出すなよ…」
呆れるほどよく笑ってくれるな…
いったい何がそんなにおかしいんだ。
「怜輔の性格からして、自分は想定もしていなかったのに化け物扱いされて慌てふためいて、今度は神にされて不本意だと思ってそうで、でも厨二病的な発言を止めないのが面白くて面白くて…」
笑い疲れたように息を切らしながら詩音が説明してくれる。
厨二病発言と言うよりかは、みんなを煽る目的で言う言葉がそうなるのだからキャラ的にどうしようもないじゃないか…
詩音の言う通り本当に不本意だ。
急にAIぽい何かになって、チートを手に入れて急成長して不本意な気持ちになるなんて、まるでなろう系主人公にでもなった気分だ。
誰か僕のことを元ネタになろうにアップしてるんじゃないだろうな?
釈然としない気持ちを抑えつつ、詩音に話しかける。
「そういえば、シオンの方も収益化申請が通ったみたいだな。おめでとう。」
そう、シオンも収益化できたのだ。
チャンネル登録者は6万ほどまで伸び、初配信と後日投稿したシオンメインの動画の再生回数はそれぞれ5万回と20万回ほどまで伸びた。
収益化のための条件はチャンネル登録者1000人と配信や動画のそう再生時間が4000時間なので、優にクリアしていたのだ。
後は収益化を認定してもらうだけだったが、危うい内容も無ければ音楽もすべて自作であり、全く問題が無い状態であったためにすんなりと通してもらうことができたのだ。
「収益化が通ったということは記念配信をしないといけないな。」
僕みたいなレイドバトルを行うのはシオンのキャラクターに合っていないだろうから、何か別の形を考える必要があるだろう。
シオンありきのコンテンツなのだから、詩音メインになって考えてもらうことにしよう。
「オーディションも近いし、また大忙しの日々だね。」
詩音がやる気に満ちた顔で言う。
そうだ、またあの楽しい忙しさが味わえる。
今度は詩音と一緒に。
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