全部僕
もちろん、全員相手が自分なんて言ってはいけない。
やらせだなんて思われたら、後が面倒だからだ。
まあ一旦やらせだと思われて炎上して、蓋を開けてみたら実はハイレベルな戦いを繰り広げていてやらせなんてどうでも良くなったという展開に持ち込んでも良いのだが、これには少々運が必要だ。
この方法なら炎上は確実にするだろう。
なぜなら最初の全部同時終局もやらせ認定されてしまうからだ。
あれだけタイミングよく終わらせて盛り上がったのは、やらせができない仕組みだと視聴者が理解しているからこそ成しえた芸当なのだ。
それが、なんだ相手を好きにマッチングできるじゃないかと思われてしまったら、最初の感動を返せという話になってくるのだ。
まあまず燃える。
じゃあ、その後の挽回は確実にできるのかという話になるが、これがやはり運が必要だといった場面だ。
先ほどチャット欄でプロ雀士やプロ棋士を見かけているので、私たちにもできるかわからないハイレベルな戦いをしているという話は広めることができるだろう。
しかし、人の感情は制御が簡単にはできないものなのだ。
いくら理屈でこれは素晴らしいものだと説かれても、素晴らしいと言われているものに憎悪の念が溜まっていると、こじつけでも否定したい衝動に駆られてしまうものだ。
例え、否定したい気持ちを抑え込めたとしても、声を上げてこれは素晴らしいと言うことまではしないだろう。
裏切られたと感じた瞬間から、リスナーはまず離れていくのである。
結局のところ、炎上商法は成功しにくいと言わざるを得ない。
一番やりづらい点は僕が長いスパンで活動することを視野に入れているコンテンツであるという面が大きい。
頻繁に炎上を連発していくようなコンテンツと思われ、そういう前提で見られるならまだしも、中途半端に炎上していくとファンを大事にしない人だという認識を得ることになってしまう。
事実このやり方ではファンに不快な思いを与えることも厭わないという戦略なので、大事にしていないのは確かだ。
まあ長々と語ってしまったが、既に知名度がある以上、炎上してまで知名度を上げる必要は無い。
つまり、僕であると明かさずにハイレベルな戦いを繰り広げる方向で行くということだ。
バレずになぜマッチングできるのかと言うと、このゲームと同じ画面を組み立て、配信画面上で入れ替えることができるからである。
あらかじめ同じ画面を忍ばせておいて、画面切り替えの瞬間に入れ替えるのだ。
たちまち相手は全員僕と言う状況が出来上がる。
実に完璧な作戦だろう。
「さあ、ラストマッチにするとしよう!そろそろ強敵と当たるはずだし、良い試合ができることを祈ろう!」
盛大にこれから起こることを預言し、画面を切り替える。
さあこの場には全員僕しかいない。
まず目に見て取れるのは将棋だ。
相居飛車から、後手番の相手が序盤に角交換を行って盤面が大きく動き始める。
お互い譲らない形で形勢は互角のまま中盤へと突入する。
次に動いたのはチェスだ。
中央でのポーンのぶつかり合いから次第に端でポーンがぶつかるようになり、取り合いが始まった後、ルークが勢いよく飛び交う。
bの筋ががら空きとなり、一歩間違えば形勢が大きく動きそうな予感だ。
一方で、麻雀は最初から大砲の打ち合いの様相を呈している。
それぞれが3倍満をたたき出し、清一色、二盃口、三槓子といった高い役が飛び交う。
チャット欄では、「全員高い役狙いすぎてムキになってるだろw」とやらせに近いことを疑われる。
まあ、その通りです…
碁の形勢は全く分からない状態になっている。
それぞれの隅を互いに2つずつ陣地を取り合ってはいるものの、中央の取り合いをどちらが制するのか分からない状況だ。
お互い高度な読み合いで相手を牽制し合い、膠着状態が中盤以降も崩れないでいる。
それぞれのプロも「これはタイトル戦か何かですか?」とコメントするほどのレベルであり、既に最先端の争いを見ているのだとリスナーも認識し始めている。
そしてコメントでプロたちが解説するようになり、チャット欄に「はえ~」という言葉が並び始めていった。
もはや畏怖の対象ですらなくなってしまったようだ。
そのままそれぞれのゲームの歴史に残るような激戦を制し、
僕は神になった。
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