【別視点】シオンの推し語り

 「それで、レイフ君の可愛いところは~」




 リスナーにレイフ君との禁断の愛の婚約者だとぶちまけたことにより、チャット欄は大盛り上がりだ。


 そのままの調子で、レイフ君がどれほど素晴らしいかを語っていく。


 正直初配信でやる内容ではないような気もするが、盛り上がっているので結果オーライだろう。




 怜輔に後でなんて言われるだろうか。


 既にDiscordには、「おい、どういうつもりだ」とか「これどうしたらいいんだ」とチャットが飛んできている。


 全部無視!言いたいことを言って外堀を埋めてしまえばいい。




 カップル認定されれば、怜輔は私から逃げられなくなるはずだ。


 最近の怜輔はなんだか危ういのだ。


 間違いなく、身体と精神が分離してしまったかのような状態になってしまったのが原因だろう。


 この身体になってしまった以上、私との婚約を破棄した方が良いなどと思っているはずだ。




 私は怜輔のことが好きかは分からない。


 もちろん慣れ親しんだ幼馴染ではあるし、人間的には好きだ。


 ただ恋愛関係になれるかと言われれば、分からないと答えるしかない。


 でも、結婚するには十分な相手だとは考えているし、こんな大変な状況になって簡単に見捨てるような関係ではないのだ。




 今の怜輔は、ある日突然いなくなってしまいそうな危うさがある。


 私の目が届かない間に、私にこれ以上婚約の関係を続けさせるわけにはいかないなどと言って消えてしまうかもしれない。


 そんな可能性があると思うとゾッとするのだ。




 レイフ君が怜輔だと知ったあの時、私は少し安心した。


 感情を失ったような怜輔を元に戻す手掛かりがつかめそうな気がしたからだ。


 このまま一緒に活動していけば、また元気な怜輔が見られるような希望を抱けたのだ。




 「怜輔は一人じゃない」




 この思いは言葉じゃなくて行動で分かってもらうべきだ。


 だから私は、簡単に居なくなれないようにレイフ君を縛り付けることにしたのだ。




 「あの厨二発言して後で後悔するところとか特に可愛いよねえ~!家でもすっごく恥ずかしがってて可愛いんだ~!」




 Twitterの文面だと後ろに星が付きそうな勢いで、レイフ君を語っていく。


 チャット欄では、「清楚なのにレイフ君のことになると勢い変わるのほんと草」だとか「推し兼婚約者兼弟って属性付けすぎだろ」といったコメントが流れていく。


 「てえてえ」と言ったコメントも流れ始め、これはそろそろカップル認定の流れが強まってきたなと勝ちを確信し始める。




 しかし、調子に乗って勢いをさらに増そうと思って口を開いた瞬間に、Discordから着信音が鳴り響いた。




 しまった!デスクトップ音声を配信に流れる設定にしてしまっていた!


 既に何かDiscordの着信があったことは、リスナーにもバレている。


 「お?ついにレイフのお出ましか?」と言った煽り文句のコメントも流れ始める。


 これは出ないわけにはいかなくなったなあ…




 とりあえず、一旦様子見とエンターテインメントのために着信を拒否する。




 「え~っと他に可愛いところは~」




 明らかなごまかしの喋りも交えて、リスナーに焦りっぽい感情を伝えていく。


 まあ、実際焦ってるんですけどね!


 少し想定してたけど、Twitterで反応くらいかなとは思ってましたよ。


 実際に電話凸してくるとは思わなかったなあ…




 チャット欄では「通話拒否してるwww」「凸が始まったぞ~!!!!」「実は不仲か???」「私もいれてよ」と面白がるコメントが流れ始める。


 完全にエンタメの流れだなあ…




 どう進めていくかを考えていると、またすぐ通話がかかってきた。


 あ~これはもう避けられないなあ。




 「さっきから何回もレイフ君から通話がかかってきたので出ることにします~。もう、せっかくの初配信なのに…!」




 いやいや通話に出るみたいな素振りを見せ、着信を許可する。


 さあ、ここからどう転んでいくか。


 私のトーク力を見せつけてやるとしましょうか!!!

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