超特大爆弾

 「え?………ええ!?」




 突然のことに驚きを隠せない。


 詩音ってこういうこと言うタイプだったか…?


 正直、突然のことに思考が上手く機能しない。


 え?どうしたらいい?


 流石に割り込むわけにもいかないだろう。


 けれどこのままだと、一方的にシオンの言うことが受け入れられてしまう。




 「詰んでないか、これ?」




 少なくとも、こういうことを言うキャラとしてシオンは認識されてしまっただろう。


 まあ、それはもうどうにも取り返しがつかないので、しょうがないと割り切るしかない。


 問題は、この後僕がどう振る舞うかと今どういう行動をとるかだ。


 どう転んでも外堀を埋められそうな予感しかしない。




 「まず、カップルとして成立させるかさせないかだよな…」




 「将来を誓い合った」という表現である以上、一見色々と逃げ道自体はありそうには思える。


 「小さい頃の話じゃないか、何を言っているんだ」とあしらう方法、「妄想だ」と言って切り捨てる方法、「姉弟で結婚できるわけないじゃないか」と現実を見せる方法、「ああ、将来一緒に会社を立ち上げると誓い合った話ね」とすり替える方法。


 どれも効果的そうではある。


 けど、詩音は伊達に社交界を切り抜けてきてはいない。


 すぐ回り込める方法を知っているのだ。


 正直、この手の技術で詩音に敵う気がしない。




 「かと言って安易にカップルとして成立させるのもなあ。」




 やっぱり、なんだかんだ言ってもVTuberはアイドル色が強いのだ。


 アニメ絵によって配信者の素顔が隠れ、みんながそこにキャラクター性を求めるからこそ気軽にスパチャを投げられるし、逆に自分の理想と違う行動を取ると強く反発してしまうのだ。


 もちろん、アイドル色を持たないVTuber、アイドル路線から脱却するVTuberもいるものの、最初に可愛い・カッコいいと思われた時点からアイドル性は簡単に付与されてしまう。


 アイドル性を持った時点で、そこを慎重に扱わないと簡単に炎上し、視聴者は離れていってしまう。


 つまり、カップリングをどうしていくかという問題はアイドル性に大きく影響を与えてしまうので特に気を遣わねばならない問題なのだ。




 「仮にカップルにしてみたとしよう。」




 今後の展開はどうなっていくだろうか?


 姉弟の禁断の愛カップルというものは珍しいので一定層の需要はあるだろう。


 しかし、万人に広く受け入れられるのかは微妙なところである。


 有名になってくると、自分の影響力に気を配らねばならないという有名税みたいなものが発生する。


 僕のチャンネルは既に登録者数が40万人を超えているため、十分有名と言っていいラインまで到達しているのだ。


 ここで「禁断の愛を助長するチャンネル」というレッテルは貼られたくない。


 こうなるリスクを考えると、カップルとして売り出すメリットが薄いように思えてくる。




 「けど、真っ向から否定するのもどうかと思うし、できるのかも分からないし、何より詩音の気持ちがなあ…」




 長年一緒に過ごしてきた許嫁なのだ。


 本気で自分のことを好きと思っているかは分からないが、少なくとも結婚するのは悪くないと思っているというのは知っている。


 その相手に真っ向から拒絶されるのは嫌だろう。


 僕だってそんなに突っぱねたいわけじゃない。




 悩みながら配信を眺めていると、どんどんシオンの話はヒートアップしていく。


 チャット欄もそれに対応するかのように盛り上がっていっている。


 シオンは持ち前の才能で上手くリスナーを煽っていた。


 配信者としては最高の素質だよ、全く!




 そう、先ほど言ったように今どうするかも悩みどころなのだ。


 どういう反応をするにしろ、Twitterで反応するか、Discordで電話をかけて割り込みに行くかしないといけない。


 さっさと方針を決めて動かないといけない。


 配信が終わってから反応してたのでは、全てシオンの思い通りに進んでしまう。




 「詩音、後で覚えてろよ…」




 僕はそう独り言ちると、シオンの配信に凸撃すべく、Discordの画面を立ち上げた。

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