切り抜きとレスバとそれからアンチ

 「………ん?」


 エゴサをかけていたら、何やら不穏なものが引っかかった。




 「『新人Vtuberレイフ・フェイク=リベリオン、スパチャしてくれた人を花火にしてしまう。』か…」


 タイトルだけ見ると、アンチが作ったようなタイトルだ。


 Vtuberの界隈では、長い配信を全て見ることが難しいため、ファンや興味を持っている新規の視聴者に対して有志が配信の見せ場を切り取った動画、いわゆる切り抜き動画をYoutubeに投稿していることがよくある。




 基本的に他のYoutuberに対してそれを行うと無断転載扱いされ、通報の対象となるが、Vtuberの場合は、まだ発展途上の業界であること、長時間にわたる配信が主体で新規のファンを獲得することが難しいといったことが理由となり、切り抜き動画の投稿が黙認・時には推奨までされるという珍しい業界だ。




 しかし、これも善意で成り立っている文化であるため、時折悪質な切り抜きが出回ってしまうことがある。


 配信の中の都合の悪い一部を切り取って流したり、自分の金儲けのために元の配信に誘導することなく全て自分の動画で完結させてしまったりというものだ。


 前者は明らかに悪いが、後者は悪質かどうかの判定がしづらい。


 実際、それで切り抜かれたVtuberにファンが増えるということもあるからだ。


 ただ、編集が凝られていてちゃんと続きが気になって、配信への誘導が工夫されているような切り抜き動画の方が、高評価やコメント欄でのウケが良いのは間違いないだろう。




 まあ、今はそれについて長々と語るよりも目の前の動画だ。


 恐る恐る動画ページを開く。




 「うわあ…」


 まず目に入ってくるのは、コメント欄でのレスバトルだ。


 それを見るだけで、この動画がアンチよりなのだろうと想像が付く。


 取りあえず動画を見進める。




 動画内では、まずスパチャを投げた人を花火で打ち上げるのはどうなのか、失礼じゃないのか?といった疑問提起がなされ、次に日ごろの言動を切り取ってイキってる痛い奴という人物像を作り出している。


 痛い奴認定はやめて欲しい。


 うっ心にダメージが…




 動画のコメント欄では「さすがにこれだけで炎上は無いと思うぞ」といったコメントが一番いいねを集めており、これだけで揚げ足を取ろうとする方が悪いという意見が優勢のようだ。


 まあ、その代償にそのコメントへのリプライで激しい論争というか罵り合いが起きているのだが…




 それなりに有名になればなるほど、アンチは増えていくものだ。


 人間同士にはどうしたって相性というものが存在する。


 誰からも好かれるという人は中々存在しない。


 それは頭では理解しているが…




 「やっぱり、悲しくなるなあ…」


 誰かに敵意を向けられているというのは、どうしたって悲しいものだ。


 なまじネットのコンテンツである以上、嫌になれば見なければいいのだ。


 わざわざ本人の目に触れるところで嫌いと言わなくたっていいだろうに。




 こういった心無い言葉に精神をやられる人たちは多く、精神の消耗を理由に引退するVtuberは後を絶たない。


 Vtuber業界の場合、推しにこいつが絡むのが嫌という理由で不快なコメントやマシュマロが送られてくる。


 Vtuber同士は仲が良いのに、リスナー同士は仲が悪いというのは有名な言葉だ。


 このコラボはやめて欲しいというリプライがツイートにぶら下げられるのは日常茶飯事。


 いかにこの世界は強靭なメンタルが必要かよくわかる。




 「まあ、気にしててもしょうがないか。」


 何しろそのアンチコメントの何十倍もの数の賞賛のコメントを受け取っているのだ。


 さっきも言った通り、アンチコメントを送る人たちとは相性が悪かったのだ。


 まっとうな批判はちゃんと受けるべきだが、それ以外の場合は推してくれる人たちにちゃんと向き合っていくべきだろう。


 そういった割り切りは昔からしてきた。


 今回も同じことだ。




 気持ちに整理をつけ、動画ページを閉じた。

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