こんなにもらっていいんですか…?

 「ああああああああああ」


 配信後に叫んで転がりまくるのも、すっかり恒例行事となってしまった。


 床の感触も無ければ回っている感覚もないが、何かしなければ気が済まない。


 あ、でもこれ松殿に見られているのかな。


 それはなんかいやだ。




 正直ネタになるかという軽い気持ちと、感謝を示して何か特別なことをやりたかったあまり、過激な感じになってしまった。


 普通に参列者打ち上げる必要なかった…


 ただ、面白がってくれる視聴者がそれなりに多くいたのが救いだろう。


 アンチも多く湧いてしまったが…




 「にしてもすごかったなあ…」


 最後はやらかしてしまったが、それ以外は概ね盛り上がったと思う。


 いっぱいスパチャも飛び交っていた。


 有名Vの3Dお披露目配信くらいあったように感じる。


 まあ、2Dであそこまでのクオリティを出せる配信は、他にはないだろう。


 大赤字も大赤字だ。


 視聴者もそう感じたからこそのあのスパチャの量だったんだろうなあ。


 実際は大黒字も大黒字だということを伝えられないのが、悲しいところではあるが。




 「さて、と…」


 大体どれくらい貯まったのか調べるために計算にかける。


 他でも明らかにされるだろうが、スパチャで集まった額は正式に発表しておいた方が良いだろう。


 ましてや資金は十分足りているとアピールするためには、具体的な材料が必要だ。




 「………は?」


 出てきた計算結果に驚く。


 一瞬計算ミスや入力ミスを疑ったが、この空間でそんなことはあり得ない。


 ならば、ついにこの空間を作っているPCがショートでもしてしまったのだろうか?




 「はは、ははは…」


 乾いた笑いしか出てこない。


 当たり前だ。


 計算結果を示すウィンドウには、2500万円と書かれていたのだから。




 昨日は同接が25万だった。


 そして、そのうちスパチャが6000回されていた。


 まあここまでは想定内だ。


 大体クオリティの高い配信をすると、スパチャの割合はこんなものだろう。


 


 しかし、問題はその次だ。


 スパチャ一回当たりの平均が4000円ってなんだ!?


 みんな張り切って投げすぎではないだろうか。


 中には高額を複数回にわたって投げている人もいるし、破産しないか心配だ。




 「それにしても一回の配信で2500万か…」


 3割がYoutubeに持っていかれるとはいえ、それを引いても1750万が手元に入るということだ。


 松殿はきっと今頃良い顔をしてるんだろうなあ…




 もちろんこんな収益が毎回の配信やお祝いの配信で起こるわけがない。


 そんなことになったら、視聴者が干からびてしまうだろう。


 でも、大金を軽々と投げるお金持ちに釣られて一緒に投げてしまうという心理状態は、こちらからはコントロールできないからなあ。




 投げ銭は、クリエイターを応援する有効な機能ではあるが、それと同時にお金を出して応援することができるんだと自分をアピールすることができるツールでもある。


 本来は投げ手が承認欲求や売名を行い、受け手が利益を得るというWin-Winの関係構築ができているはずが、いつの間にか受け手による一方的な搾取の構図に置き換わっているということにもなりかねない。


 もちろん、こういう危険性があるから排除しなければならない!という簡単な話では無く、そうならないような暗黙の了解を、その場限りで成り立たせることによって成立しているという文化なのだ。


 すべてはお互いの良識に基づいて成り立つ世界なのだから、その良識を守る必要があるということだろう。


 残念ながら僕の声ではどうしようもないが…




 まあ、とりあえずツイートしておこう。


 これだけ稼げたので、しばらくは無理なスパチャはやめておいてくださいというようなニュアンスを伝えるようにしておいたらマシにはなるだろう。


 そう決めて僕はTwitterのウィンドウへと意識を向けた。

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