体がバキボキ鳴るだけの話

月澄狸

体がバキボキ鳴るだけの話

 ちょっと腰をひねると「バキボキッ!」と音がする。

 私がその事実に気づいた……というかそのようになったのは、たしか中学生くらいの頃だ。体育開始時にいつも軽い体操があるのだが、その中の「ひねる運動」をすると体がパキパキ鳴ってしまうのだ。

 それに気づいた私は、音を立てないように必死で頑張っていた。


 みんなが体操中の体育館で「バキバキ! ベキッ」なんて音が響き渡ることになったら大変だ。恥ずかしすぎる。腰をひねる運動なんてさせないでほしい。頼むから……。


 ……と思っても腰をひねる運動は避けて通れなかったため、仕方なく、ちょっとやる気のない生徒のような浅めの運動をしていた。



 その頃は自分が音を鳴らすのが恥ずかしくてたまらなかった。

 授業中におなかが鳴るのも恥ずかしいことだった。テストでシーンとした教室にいるときなんか、おなかの音を鳴らさないように踏ん張っていた。無駄な抵抗なんだけど。


 そんなわけだから体がバキバキ鳴ることをまわりに隠し通そうと必死だった。音が鳴ることがバレたら体育の度にいじられるかもしれない。決して知られてはならないのだ……。


 そんな私の努力の甲斐あってか、体がバキボキ鳴る事実が人にバレることはなかった。ふぅ。



 しかし音が鳴る箇所はその後も着実に増えていった……というかその後面白がって開拓し、増やしてしまった。

 手首を押すとパキッと鳴る。肩を上げるとパキッと鳴る。首を傾げるとパキッと鳴る。その度になんだか、骨が正常な位置に戻るようで気持ちいいのだ。


「ん? じゃあこのあたりも鳴るんじゃないか」などとあれこれ体を動かし、鳴る場所を発見していった。最近では首の後ろや腰の裏も鳴る。



 ただ、それを「骨が正常な位置に戻るようで気持ちいい」と捉えるのは誤解らしい。「体 バキバキ 鳴らす」などで検索すると、体が鳴るのはどういう現象であってなぜ体に悪いかを教えてくれる。私には医学の知識がないので読んでも分からないのだが。


 ……そう。バキバキ鳴らすのは体に悪いというのだ。


 バキバキ鳴らすと関節や椎間板が破壊されたり血管が切れたり、まわりの筋肉が固まって腰痛や肩こりが慢性化したりといった恐ろしいことが起こるらしい。



 そういえば私も、「骨が正常な位置に戻るようで気持ちいい」などと感じてはいたが、結果的にバキボキ鳴らすことによって健康になったなぁとは思わない。

 最近では体じゅう地味に痛かったり怠かったり。腕や足が痺れやすくもなった。背中を地面につけて寝るだけでもなんだか痛くて痺れる。首回りも調子が良くない。


「姿勢が悪いし運動不足だしお菓子ばっかり食べているせいかなー」などと思っていたが、まさかバキボキが原因だろうか。



 とにかくバキボキで健康にはならないらしい。

 体を自分勝手に鳴らしてはいけない。





 面白おかしく、あるいはゆるーいエッセイを書こうとしたのに、健康に対する不安で終わってしまった……。


 最近はタブレット端末を操作するときタブレットを持ち上げて上を向くようにし、寝るとき枕も使うようになった(ずっと使っていなかった)。


 その結果、なんだか調子が良い。 

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