第24話

「特訓の調子はどうですか?」

「うちはもう完璧。天才だから。他の天才じゃない人は大変みたいだけど」


 トキは胸を張ってそう答えた。

 正直このくらいのところで切り上げてもらいたい。


「あのね、トキみんなとバランス取れてないよ。そこちゃんとやろう」

「それはみんながダメなんだよ。うちに追いつけるようにもっと頑張ってよ」


 トキがそう言うと、ハナは下唇を噛んでキヌのもとに戻った。


 取り残されたトキは、郷里の顔を見る。


 郷里は膝を折ってトキに目線を合わせてきた。


「なに? やっぱうちがダメだって言うの?」

「いいえ。そうは思いません。トキさんはどうすればいいと思ってますか?」

「うちは……まぁ、うちも悪いんだけど」

「トキさん。大事なのはここです」


 そう言って郷里は自分の胸板を拳で叩いた。

 床に響くほど大きなドンッという音が鳴る。


「それって……あのね、うちはまだだけど、これから成長期だからもっと大きくなるし」

「ハートです。トキさん。どうしたら楽しいかを考えましょう。どうしたら自分が楽しいか。どうしたらラブ・ストライクズで楽しくいられるか。どうしたらみんなで楽しめるか。天才ならきっと間違えないはずです」

「……あのね、うち思ったんだけど、ちょっと面倒臭い方が楽しい場合あるかもね」

「小官も、そうだと思ってました」

「なにそれー、うちのセリフじゃん!」


 そう言って郷里の太い二の腕をパシンと叩くと郷里は大きな顔で大きな笑みを作った。


 郷里の笑顔は、いつも険しい顔ばっかりしているせいか、柔らかく、温かく、抱きつきたくなる。


 トキと郷里がみんなの元に戻ると、キヌが立ち上がって頭を下げた。


「ご、ご迷惑をお掛けしてしまい……」

「お身体は大丈夫なのですか?」

「はい。全然、そういうのではないので」

「キヌさんはラブ・ストライクズの要ですから、頑張ってください」

「私が……」


 キヌが驚いたように目を丸くする。


 あまりにも郷里がキヌをじっと見つめているのでトキはなんだか悔しさが沸き起こる。


「ちょっと待ってよ。キヌチャばっかり要って。うちらはラブ・ストライクズに必要じゃないってことー?」

「トキ、そういうことじゃないよ」


 ハナがたしなめてきたが、なんだかキヌばっかり依怙贔屓されてるみたいで納得がいかない。


「もちろんみなさんの中でラブ・ストライクズに必要じゃない人はいません。タエさん」

「はい」

「あなたはラブ・ストライクズの柱です」

「柱か、確かに。うまいこと言いすぎ」


 ハナが郷里の言葉に関心したように頷く。


 タエは珍しく視線を逸らして落ち着かない顔をしていた。


「ハナさん、あなたはラブ・ストライクズの魂です」

「おお、そういうの言われたかった!」

「ウメさん、あなたはラブ・ストライクズの鍵です」

「よくおわかりで」


 ウメは嬉しそうに頷いた。


「そしてトキさん、あなたは――」


 司令官がトキをみつめる。


 自分で言い出したことなのに、何を言われるのか怖くなり、トキの鼓動は跳ね上がった。


「あなたはラブ・ストライクズの黒幕です」

「黒幕! うちが! そうだと思ってた!」


 トキは思わず口元が笑ってしまい、頬が痛くなった。


 ただ褒められただけじゃなく、おだてられただけでもなく、その司令官の信頼に答えなきゃ、と背筋が伸びる気がした。


 ハナが手を叩いて爆笑しながら言う。


「司令官、それ全部考えてたの?」


「いえ、今のはアドリブです」


 郷里はそう言って鼻の脇を太い指で掻いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る