第25話
「悪を切り裂く、ラブことタエ!」
「恐怖を止める、点ことウメ!」
「友を守る、ストことハナ!」
「愛で包む、ライことキヌ!」
「遊び呆ける、クズことトキ!」
「溢れる愛で胸を打つ、五人合わせて……」
「「「「「ラブ・ストライクズ」」」」」
ポーズを決めた五人のスーパーヒロインの背後で花が舞い散る。
キヌは思わず泣きそうになった。
今まで何度も、それこそ嫌になるほど練習したみんなでの名乗り。
だけど、実際に怪獣を目の前にしてやってみると、身体の奥がジーンと震える。
怪獣が名乗りのポーズを聞いているわけはないけど、こっちを威嚇するように注目している。
高さは8mはあるだろう、二足歩行のため背は高いけど、ズッシリとした重量感は感じない。
人間ならば肩の辺りから片側四本ずつ、八本の腕が伸びている。
触手、というイメージではなく腕のように見える。
うねうねと縦横無尽に動くのではなく、関節によってカクカクと動いているからだろう。
二足歩行の人間っぽい怪獣は、人間的な動きを頭に思い描いていると予想外の行動に戸惑うことが多い。
しかし、いつもなら怖くて直視したくない怪獣にも、なんだか負けてない気がしてきた。
「諸君。この怪獣はかなりの強敵と思われます。十分に気をつけて、全力を尽くしてください」
郷里からの通信に各自頷き戦闘態勢についた。
『勝ちたい!』それはキヌ一人だけの思いではなかった。
本来、この怪獣はラブ・ストライクズの担当ではなかったという。
ラブ・ストライクズでは手に余ると判断されていたのだろう、それを郷里が推薦したらしい。
どこかで勝ちを諦めていた、負けてもしょうがないと自分を納得させていた、そんな自分たちに郷里は勝てるという信頼を寄せてくれた。
その信頼に応えたい。
その思いは、『ラブ・ストライクズ』全員の気持ちを一つにした。
トキが飛び出し、怪獣の股の間をくぐり、足に一撃入れて離脱する。
怪獣はトキを無視してウメに腕を向ける。
腕のように伸びていたもの、それは砲身のように伸縮して先端部を弾丸のように発射した。
両手を怪獣の方向に向けたまま立ち止まっていたウメに怪獣の攻撃が迫る。
「ウメさん、気をつけ……」
「任せてください」
タエの声にかぶせるようにキヌが返事をする。
キヌはウメを抱えて素早く跳び、攻撃を避けた。
どうしたらもっと強くなれるのかはわからない。
だけど、強くなるばかりがスーパーヒロインじゃないのかもしれない。
本音を言えば、キヌだって活躍をしたい。
タエのようにとどめを刺してみんなから称賛の声を浴びたい。
だけど、それにこだわりすぎててもきっとダメなんだ。
「キヌちゃんったら、動き良すぎ!」
ハナの声が飛んできて、嬉しさで口元がモニョモニョしてしまう。
なおも視線で怪獣がウメを追いかける中、キヌはウメを抱えたまま瓦礫の中を踊るように移動する。
怪獣が業を煮やして咆哮をあげようとした瞬間、その頭上に鉄柱が落下する。
頭から鉄柱によって串刺しになる、そんな予想を嘲笑うように、怪獣は素早く屈み込み身体の位置を変える。
「甘すぎるのよ!」
怪獣の動きにカウンターを入れるようにハナがドリルパンチ連続して食らわせる。
怪獣はその攻撃に反応して反対側に重心を移すと、そこに鉄柱が落ち、怪獣の腕を貫き地面に刺さった。
「今日のあたしたちはいつもと違うからね」
「どうやら怪獣は私の魅力に釘付けになったようよ」
ウメが髪をかきあげ余裕の笑みを浮かべる。
「さぁ、タエ! いつもみたいにキツすぎるおしおき決めてやって!」
「うちらのすごいところ、ジョギャーンと見せようよ」
トキとハナがビルの上に登ったタエに声をかける。
しかし、怪獣はそれに気づいたのか、動ける部分だけでも無理やり動かして抵抗する。
怪獣の身体の一部が四方八方に飛び散る。
キヌはウメの前に飛び出てそれを叩き落とす。
ここでウメを守りきればタエが決めてくれる。
自分が大活躍をするわけじゃない、でもここで自分が踏張ならければ勝利にも手が届かない。
キヌは目の前の怪獣の攻撃に集中した。
トキとハナは怪獣の足元を攻撃して動きを止める。
「フフフ、勝ったね」
飛び上がって怪獣の首めがけて落下しながら扇子を広げるタエを見てハナがほくそ笑む。
タエが怪獣の首に攻撃を与え断末魔が響く、かと思われたが、怪獣が放った弾丸がタエの左手にかすり、扇子が吹き飛んだ。
「ぃや……」
声を上げたのはタエの方だった。
「どうしたの、タエ?」
「ごめんなさい。失敗……」
タエがそう呟くと同時に、怪獣が大きく暴れ、取り憑いていたトキとハナはふっとばされた。
キヌはウメを助けるために駆け出した。
しかし、その背中に飛び散った怪獣の欠片が当たり呼吸が詰まり倒れこむ。
一瞬にして形勢は逆転した。
「あ、あぁ……」
膝をついて呻くような声を漏らしたタエに怪獣の影が覆う。
動けないキヌは、その絶望的な様子をただ見つめるしかなかった。
「そこまでよ! 私たち夜麗遊撃姫が来たからにはもう安心よ」
救援として現れたスーパーヒロインチームの声が響いた。
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