第12話
郷里が助手席から降りてウメたちの元に駆け寄ってきた。
「遅くなりました。市民の避難は継続中、予定では七分後に完了するそうです。先程申し上げましたように、バスの中に取り残された者がいて、それを救助するために何人かの救護班が待機しています。衝撃により変形した車内をこじ開ける機械の到着を待っているそうですが、なにぶん建物の中で重機は入れません」
「私たちにしかできないのですね」
タエは顔にかかる髪の毛を振り払うように首を振りそう答えた。
彼女は自分のすべきことを覚悟した後にいつもこういう表情をする。
緊張感と悲壮感を兼ね揃えたような表情だ。
「そうです。せっかくの皆さんの意欲を無にして申し訳……」
「わかってるって、これも戦いよね!」
ラブ・ストライクズのメンバーは笑顔で頷いた。
郷里はそれを見て、再び深く頭を下げた。
頭を下げる司令官というのをウメは初めて見たが、その行動に対する感想よりも、目の前にある郷里の短く揃えた髪の毛がチクチクしてそうだということの方が印象に残った。
「行くわよ。ハナ、キヌ」
「ヒヨヨ、私……ちょっと……」
タエの声にキヌが小さく答えた。
睫毛には涙の粒が零れ落ちそうに溜まっていた。
「どうしました、キヌさん?」
郷里がキヌに近づき、腰をかがめる。
「ヒヨッ……。怖いかなって」
「それは失礼しました」
「司令官の顔のことじゃないです。顔は大好物、いえ、大丈夫です」
ラブ・ストライクズのメンバーはそれほど身長差があるわけではないが、その中でもキヌは一番背が低い。
そして郷里は一般男性として見てもあんまり見かけないほど背が高い。
その二人が向かい合ってると郷里はキヌの倍くらいの大きさがあるような気がする。
体積にしたら六倍はありそうだ。
郷里はビルを見上げる。
無精髭など一本もない顎のラインに、大きな喉仏が見えた。
ウメはなんだかそんな光景を見てはいけないような気がしてビルの方を見る。
均衡はとれているものの、何かのきっかけでいつバスが落ちてくるかもわからない。
そしてここまで強大な衝撃が加わった建造物が無事であるという保証もない。
「ビルに登るのは、タエさん、ハナさん、トキさんにしましょう。キヌさんはウメさんのサポートをお願いします」
キヌが瞳を潤ませてタエの顔を上目遣いに伺う。
タエは一瞬戸惑ってこちらに視線を向けたあと、キヌの頭に手を置く。
「ウメさんをお願いね」
キヌはカクカクと何度も頷いた。
トキが身体をくの字に曲げて不満気に唇を尖らせる。
「えー、階段登るんでしょ。階段って登れば登るほど女子力が下がるってハナチャ言ってたじゃん」
「下がった女子力は階段を降りればまた上がるよ」
「女子力ってそんな位置エネルギーみたいなものなの?」
「1エネルギーどころか、あたしなんか100エネルギーくらいありすぎるからね!」
「イチってそういう意味じゃないんだけど……」
「お願いします。小官も一緒に行きます。トキさんの幸運を分けてください」
「しょうがないなぁ。でも分けたらうちの分が減っちゃわない?」
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