第11話
現場についた
動的な惨劇ではなく、静的な惨状が広がっている。
怪獣の暴力によるものなのは想像がつく。
事故としては不自然だから。
救助現場に辿り着いた五人はそれを見上げ、言葉を失っていた。
ビルの七階にバスが突き刺さっている。
バスの後部がビルの外に突出し、重力により傾いでいた。
そのバスの中には、未だ取り残された一般市民がいるという。
「タエ、どうする?」
ハナがいつものように聞くと、タエは唇を強く閉じて頷いた。
「ビルの中からバスに乗り込むしかないわね」
「そんなことして大丈夫? ビルも崩れそうだよ」
「でも、そうするしかない。時間が立てば状況は悪化するわ。できるだけ早く。ウメさんとトキはビルの周囲で状況を警戒。ウメさんはバスが落ちそうになったら固定してください」
ウメはタエの目を見てゆっくりと微笑む。
「もしそんなことができたら、宙に浮かぶお城でも作ってるわ」
ウメの能力は空間干渉系といわれる特殊なものだ。
任意の空間座標に生物以外の物質を固定させる。
簡単にいえば、空中に物を浮かせる能力と言える。
あらゆる場面で状況を一変させるだけの優れた能力であるが、そう上手くはいかない。
固定されるものの大きさ、そして固定される場所の距離が極めて限定的で、遠くのものや大きなものには使えない。
せいぜい2m四方の大きさが限界で、小さな自動車ならなんとか可能ではあるが、バスとなるとまったく歯がたたない。
「前に怪獣を空中で固定したことがありましたよね」
タエが余裕なさそうに声を張り上げる。
ラブ・ストライクズのメンバーでさえもウメの能力を誤解している。
ウメは怪獣を固定することは出来ない。
怪獣の周りにある物質を固定させ、怪獣を動けなくしていたのだ。
それは限定的な状況であるし、調子が良かったからに過ぎない。
「宝くじに当たったようなものよ」
「だったら、今回も宝くじを当てて下さい。能力が届くようにギリギリまで近づいて。トキ、ウメさんをサポートして守ってね」
「アイアイサー」
タエはウメの返事を待たずに着々と指示を飛ばす。
自分の能力以上のことはできない。
精神論でどうにかなるという希望はウメにはない。
希望的観測はことごとくうちやぶられるもの、それは自分のキャリアの中で嫌というほど知っている。
頑張れば思った以上の力が出て好転する、なんてドラマチックなことはありえない。
なぜなら、常に出来る限りのことはしているのだから。
できることはできることだけ。
できないことはできない。
それだけのシンプルな話なのに、それを無視して期待されても答えることは出来ない。
それなのにタエは、何かとっておきがあるのではないかとウメに期待を寄せてくる。
ウメは考えを巡らせていた。
期待には答えられないけど、他の方法で答えることは出来ないか。
ウメはラブ・ストライクズが好きだった。
メンバーの全員が好きだった。
ラブ・ストライクズのメンバーは負けを引きずらない。
それはウメが以前いたチームとはまったく違うものだった。
負けた所であっけらかんとして、笑って誤魔化すことができる。
それを本気でないと非難することもできるだろう。
だけど、そうすることにより、より早く気持ちを切り替えることができる。
チームの負けの原因を究明するために、誰かを悪者にすることもない。
勝った時は朗らかに笑い、負けた時も苦笑いで次に挑む。
そのポジティブさが好きだった。
それでもリーダーであるタエは、責任を抱え込む傾向にある。
だからウメとしては、タエの負担を少しでも軽減してあげたかった。
やるだけのことはやったのだからしかたがない。と切り替えられるくらいには思い通りのことをさせてあげたい。
ウメは勝ち負けに関してはそれほどのこだわりがあるわけではない。
それは他のメンバーよりもキャリアが長いことが原因かもしれない。
勝ちにこだわり、それだけの結果を重ね、なおも勝利を欲して張り詰めたチームにいたこともあった。
勝ったところで笑顔の一つも作らず、悲壮感が漂うだけ。
それに比べたら、負けても笑っていられるなんて素晴らしいことだと思う。
ウメはあのバスを固定する覚悟を決めた。
そのために打つべき手を頭の中で巡らせていた。
「ハナとキヌは私とバスの中の怪我人を救出」
タエが指示を出して踏みだそうとした時、装甲のついたごつい車がドリフトをしウメの前に止まった。
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