第10話
装備の信号音が鳴り、通信が入った。
リーダーであるタエが応答する。
キヌは邪魔をしてはいけないと口をつぐんだが、ハナとトキは気にせずに話し続けていた。
「でも男の人なんて単純すぎるから。この戦いで勝てば機嫌も直るよ」
「そりゃ、勝てればいいけどさー。そんなこと言ったって負けちゃう時は負けるからね」
「そん時はしょうがない。次があるさ」
あまり深刻にならずにハナはかわいらしい笑顔を作る。
キヌはタエの様子をうかがって指を口の前に立ててシーッと発した。
タエの表情は明らかに曇っている。
「さっきタエちゃも言ってたじゃん。司令官のことは一旦置いておいて。あたしたちは自分のできることをするだけって。そういうことだよ」
「さすがリーダー。いいこと言いすぎねぇ」
ハナがタエを意識して声のトーンを下げながらも、持ち上げるような発言をする。
「うちも言いたい。納豆、オクラ、山芋などのネバネバ食品には血液サラサラ効果があるから食べたほうがいいんだって! そういうことだよ」
「いや、トキ。そんな無理矢理いいこと言おうとしなくていいから。いいことというか、健康ミニ情報だよそれ」
トキとハナがやりとりをしていると、タエが拳を無人機の壁に叩きつけた。
「一体どういうことでしょうか?」
突然の行動と、怒りを噛み殺したかのような低く震えるタエの声に一同が緊張した。
「ラブ・ストライクズ諸君の現在位置ですと、予定現場到着まで2分ほどですね」
「現在地は、現場まで後1分30秒ほどです。もうまもなく着きます」
通信から流れる
「ですから、目標をこれから送る地点に変更してください。小官も現場に向かっています」
「だから、どういうことですか? 怪獣が移動したという報告は聞いてませんが?」
「現場には別のチームが向かっています。ラブ・ストライクズは、怪我人の救助にあたります」
「……それは、私たちに戦うなということですか?」
「そうです」
郷里の太い声が力強く肯定する。
ハナが不満気な表情でマイクに向かって言った。
「救助なんて普段通り、男たちに任せておけばいいじゃない」
郷里はしばらく時間をおき、ゆっくりと低い声で言った。
「ハナさん。救助なんて、という言葉は二度と言わないようにしてください」
「……ごめんなさい」
そう謝ると、ハナはしゅんと小さくなった。
キヌは思わず、ハナの手に自分の手のひらを重ねる。
タエはマイクに向かって話しかけた。
「司令官、一ついいですか? この命令に私情はからんでいませんか?」
「おりません」
「わかりました。私たちは救助現場に向かいます。詳しい場所を転送してください」
ディスプレイに新しい目的地が表示され、輸送機が大きく傾く。
「悔しいけど、司令官がそう判断したのならしょうがないわ。私たちは結果を残してこなかったわけだし。みんな、ごめんなさい」
「タエが謝ることない!」
ハナが泣きそうな表情でそう言う。
せっかく戦えると思ったのに。
今日は勝てる気がしたのに。
それで司令官に喜んでもらおうと思ってたのに。
そのすべてを台無しにする命令にキヌは憤っていた。
「ひどいです、いじわるゴリラです。もう全然バの字じゃないです」
「ブの字だよね!」
トキが同意するようにそう言った。
意味は全然わからないけど、気持ちはなんとなく伝わった。
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