第6話
残りのメンバーは2人。
様子をうかがうと対称的な2人だった。
「
「ヒヨヨ」
向かって右側の手前に座る女の子が身を縮こませる。
さっき郷里の咳払い一つで椅子から転げ落ちた子だった。
五人の中では一番身長が低く、しかし華奢な感じはしない。
背が低いのを気にしているのか、トップテイルに大きなシュシュを付けてわずかであるが身長を大きく見せているようだ。
常に不安そうな表情を浮かべていて、今にも泣き出してしまうのではないかと心配になる。
「能力は肉体強化系。年齢は16歳。武器はマジカル怪獣じゃらし。槍状の先にふわふわの柔らかい毛がついていて、どんな怪獣でもイチコロ。とありますが、怪獣に効くのでしょうか」
「えと、ええと、あのですね。一応設定上は効くことになってるんです。でも、まだ効いたことはなくて。あと戦ってると毛が抜けちゃうし、汚れてなんか灰色のカビがついてるだけの棒みたいになって、全然かわいくないんです。本当は違うのに変えてもらいたかったんですぅ」
「検討しましょう。カビの棒、と」
郷里が資料に書き加えているとトキが鋭く挙手をして立ち上がった。
「あと、キヌチャはラブ・ストライクズのマドンナです!」
「えぇ~、そんなの初めて言われたよぉ」
「うちが今考えつきました」
トキの言葉に他のメンバーは若干呆れたような顔をしながらも微笑んでいる。
恐らくトキの発言による脱線は日常のことなのだろう。
郷里は手元の資料に目を落とす。
「
「はい! ちなみにうちはラブ・ストライクズのロータリーです!」
トキが両腕を腰に添え、胸を張ってそう言った。
短く刈り上げた髪といい、クルクルとよく変わる大げさな表情といい、子供のようだ。
資料には13歳と記載されているが、それよりも遥かに幼く感じる。
かえってトキの幼さが際立っているからこそ、他のメンバーが歳の割にはしっかりしているようにも感じられた。
「ロータリー。それは、駆動機関に関係のあることでしょうか?」
「えー。司令官、知らないの? 年下の可愛い女の子って意味なんだよ」
「それ、ロリータだから」
ハナがつっこむ。
「えー、違うよ。ロータリーだよ。ねぇ?」
「ロリータよ」
「ロリータね」
「トキちゃん、ロリータだよ」
トキが意見を求めると、一斉にみんなが否定した。
「う……」
トキは唇を尖らせて眉を寄せて泣きそうな表情で俯いた。
なんと声をかけたらいいのか。
下手に刺激して泣かれても困る、と郷里が思っていると。
「司令官、ロリータだよ。うちは最初からそう言ってたよね!」
トキは顔を上げると、鼻の穴をふくらませた自慢げな表情でそう言い放った。
「はい。能力は肉体強化系。年齢は13歳。武器は目玉一発大ハンマーで、間違いないですね」
「それが肉体強化系じゃないと思うんだよ。そんなに強くもないしさー。まだ見ぬ謎の能力なんだよ。強いて言えば天才系」
「運は良すぎるんです」
ハナがそう言った。
「いいわよね、運。あとおしゃべり」
タエが頷きながら続く。
「悪運が強いのよね」
「早口で運がいいんです」
ウメとキヌも付け加える。
「わかりました。おしゃべり、と」
メンバーの確認を終えて改めて郷里はそれぞれの顔を見る。
相手もこちらを見てくるので、目が合い、そのたびに緊張を気取られないように表情が険しくなってしまう。
スーパーヒロイン。
市民を救うアイドル。
誰からも愛され、憧れられる存在。
そして、難しい年頃の女の子。
しかし、そんなことは関係ない。
これからはひとつのチームとして活動していかなくてはならない。
郷里の役目は彼女たちラブ・ストライクズの評価を上げることだ。
その基本は戦闘での勝率を上げることとなる。
「まだ今までのデータを分析中ですが、戦績は芳しくないようですね」
そう言うと、明らかに空気が重くなり、ラブ・ストライクズのメンバーは俯いて黙り込んだ。
「でもたまに勝ってるよ」
最年少故に重い空気に惑わされないのか、トキが頬を膨らましてそう反論した。
その言動も、どこかやんちゃで、他のメンバーのように女性っぽい手強さは感じない。
「対策を講じようと思います。別命あるまで待機してください」
郷里が資料をまとめて席を立とうとすると、タエが手を挙げた。
「あの、質問していいですか?」
郷里が答える前に、他の女子たちが静かに感嘆の声を漏らす。
意志の強そうな瞳。
責任感からか自然とリーダーになったのだろうことは想像に難くない。
「はい」
「どうして私たちに敬語なんですか?」
タエはまっすぐに目をそらさずこちらを見つめてきた。
周りを見ると、他の者達も、なにかを期待するような眼差しで見つめている。
それほどおかしなことだろうか。
相手は女性とはいえ、意志を持った人間である。
たとえ司令を与える立場とはいえども、別に自分自身が偉くなったわけでもない。
今までの司令官はそうではなかったのだろう。
では敬語でなければどのように話しかければ良いのか。
そう考えた瞬間、ボキャブラリーが急激に貧困になった気がして、なんと話していいかわからなくなってしまった。
まさか昔の軍人のような命令口調で「うるさい、口答えするな!」などと言うわけにもいかない。
なぜだろう、郷里にとって彼女たちに対して敬語で話すのはごく自然なことだと思っていたのだ。
考えれば考えるほど、答えは迷宮の奥へと逃げていく。
郷里はゆっくりと息を吐きだす。
「少し考える時間をもらえますか?」
タエは目を丸くして口をわずかに開いたままの表情で固まる。
「いえ、結構です。そんなたいしたことではないので」
この数十秒間に起こったことをなかったことにするように、タエは小さく手を振った。
緊張が溶けたのか、ほかの女の子たちも小さく笑い声を漏らす。
「いいえ。大したことです」
はたして今の答えで適切だったのだろうか。
それは今後の課題にすべき問題だ。
そう思いながら郷里は振り返らずに作戦司令室を後にした。
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