第34話

 暴走する象は怪獣に近づき過ぎないようハナたちの側を通り抜けていった。


 象の上にはカラフルマリーズのリーダー、バイオレットケイト。

 そして郷里が乗っていた。


 すれ違った一瞬。

 たったそれだけで十分すぎた。


 見ていてくれている。

 勇気は何倍にもなる。


 そしてその後姿を見送ったあと、ハナは我慢できずに噴出してしまった。


 トキもつられて笑う。


「だって、司令官の私服……ぶふっ」

「シャツインしてたね」


 薄桃色のカッターシャツの裾をきちんとズボンの中につっこみ、サスペンダーをしていた。

 きっとウエストが太すぎてベルトが合わないのかもしれない。


 幅広で筋肉質な郷里が、そんな七五三を祝う男の子のような格好だったのが面白くて仕方ない。


 二人の緊張感に欠けるやりとりに呆れたのか、タエもキヌも、ウメさえも表情が柔らかくなった。


「どうする? 次に控えてる無傷のチームもいるわ?」


 タエがそう尋ねる。

 髪をかきあげて目を細めている。


 ウメも口元に笑みを浮かべてアメリカ人のジェスチャーのように肩を上下させた。


「冗談でしょ、ここからが見せ場じゃない」


 ハナはそう言って二人の手を取った。


「負けないって決めたんです」


 キヌも手を重ねる。


「やっと身体が温まってきたところ」


 最後にトキが勢い良く手を叩きつける。


「そうね、行くわよ。溢れる愛で胸を打つ、五人合わせて……」


「「「「「ラブ・ストライクズ」」」」」


 ウメが空中に階段を作り、トキとタエがそれを登る。


 ハナは収納されていた装備の中からメガネを出した。


「大門メガネですね」

「あ、ちょっとキヌちゃんあんまりじっくり見ないで。これをつけたってのはここだけの秘密にして」

「似合ってます!」

「嬉しくなさすぎる。正直これはあんまり似合いたくないよ!」


 ハナとキヌは背中合わせになり、回りながら周囲を見わたす。


 遠くに飛び散った怪獣の欠片を目で追う。

 あまりにも数は膨大だけど、必ずあの中に弱点があるはずだ。

 メガネの望遠を最大にして眉間に痛みが走るほど集中して観測する。


 運悪く、起爆となるコケシのような部分に瓦礫が当たった。


 一気に怪獣の欠片が迫る。


 その中でハナは他の欠片とは違う赤く光る部分を見つけた。


「キヌちゃん。力を貸して」

「もちろんです!」


 キヌはハナの肩にそっと手を載せてきた。

 それだけでじんわりと温かく、力が伝わってくる気がする。


「いけぇ! ドリルロケットパンチキャノン!」


 ハナのパンチが赤い目を持つ欠片を打ち抜き、爆発する怪獣が破裂音を立てて霧散した。


 巨大な怪獣にはタエが切り刻んだビルをウメが的確に当てるように落としている。


 怪獣は苛立つようにタエたちのいるビルに向かう。


 しかしタエとウメはビルからビルへと華麗に移動する。


 怪獣がタエたちを追いかけ、ハナに背中を向けた時、その首元にトキがしがみついてるのが見えた。


 キヌが切迫した声を上げてハナの肩を掴んだ手に力を込める。


「ハナちゃん。やっぱり司令官が言ったとおり、遠距離攻撃の才能がありますよ」

「そうみたいだけど、ここから撃っても効くかな?」

「撃ってください。弾は私です」

「意味わからなすぎるんだけど?」

「私を、トキちゃんのところまで投げつけてください」


 その馬鹿げた言い分に、ハナは頷いた。


 何も聞き返す必要はない。

 キヌの表情がすべてを語っていたから。


「いけぇ! ロケットキヌちゃんバレット!」


 キヌの身体は思ったよりも軽く、気持ちいい手応えを与えて飛んでいった。

 きっとキヌの能力によってハナの力も増幅されてたのだろう。


 怖がりなのに。

 いつも輸送機の中では青ざめて黙りこんでいるのに。


 キヌはトキの側、怪獣の首元に辿り着きトキとガッチリと手を組んだ。


 ウメとタエが鉄柱を落として怪獣の足を止める。


 トキが怪獣の背中を攻撃すると、怪獣は今まで上げたことのない鳴き声で暴れた。


 トキとキヌは同じ場所を何度も攻撃し、そのたびに怪獣が痙攣して身を屈めていく。


 ついに怪獣は唸るような咆哮をすると四つん這いになった。

 自分が消えるという状況を許せず、怒り狂うような声だった。


「タエチャー! ここ弱点だから! うちが発見したから!」

「さすがトキ。弱点を探し当てるなんて運が良すぎ」

「天才だからね。キヌチャのおかげで当社比5倍くらい天才だよ!」


 ウメの作った瓦礫を飛び移り、タエは怪獣の背中の弱点へと迫った。

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