第31話
その怪獣は、今までのものよりもかなり大きかった。
丸い体に刺が無数に生えているようなシルエット。
ハナは以前、図鑑でこういったフグをみたことがあった。
大きさは10mくらいだろうか、でもなんだかどんどん膨らんでいる気がする。
あのカラフルマリーズがやられたほどの怪獣だ。
もちろんハナの胸の中は恐怖でいっぱいだった。
それでもラブ・ストライクズのみんなとなら立ち向かっていける。
ずっと負け続けていた。
ずっと諦めてた。
この程度だと自分に言い聞かせていた。
でも、悔しくないわけ無いのだ。
今まで悔しさを見て見ぬふりをしてきた、だけどそのすべての過去の無念さが、ハナを駆り立てる。
拳に自然と力がこもる。
タエとトキと一緒に怪獣に接近する。
ハナは一番槍をつけるべく、怪獣に肉薄して拳を振りかぶる。
「みんな、頭が高いんじゃなくて?」
通信にウメの気位の高そうな声が響く。
ウメの性格はわかりづらい。
口では辛辣なことを言うけど、実は無駄なことはあまり言わない。
意地悪そうに見えても実は優しい。
それは仲間として過ごしてきたからわかる。
ハナは怪獣から目をそらさず、前方に転がりながら身を伏せた。
他のメンバーも同様に身を屈める。
あのウメがこんな大事な場面で無駄なことを言うはずはないから。
全員が伏せたまま警戒をしていると、怪獣が爆発して弾け飛んだ。
地響きが鳴り、周囲の建物が崩れる。
地面に伏せている頭の上を衝撃が駆け抜ける。
「なかなか従順ですこと」
ウメの声がビリビリとした空気の中で耳に入った。
あのまま攻撃を仕掛けていたらハナもトキもタエも一発で戦闘不能に陥っていだろう。
おそらく、カラフルマリーズもアレを食らったに違いなかった。
「え? なにあれ? なんかちっちゃすぎ!」
爆発した怪獣のいた場所には体長80cmほどのコケシのようなものが立っていた。
自爆のような攻撃をして残った本体があれなのだろう。
明らかに弱そうで、戸惑いながらその怪獣の本体と距離を取る。
トキが腕を組んで難しそうな顔をして言う。
「弱そうだけど、あれは罠と見たね! 天才だからわかった」
「天才じゃなくてもみんなわかってるよ。ここは私が。ロケットドリルキャノンパンチ!」
ドリルパンチが飛び、小さい怪獣の本体に命中した瞬間、周囲から風を切る音とともに先ほど爆散した怪獣の身体が降り注ぎ、怪獣の本体に集結する。
驚きはしたものの、その全方位から飛んでくる怪獣の攻撃を避けるのはそれほど難しくはなかった。
爆発で四方八方に飛び散った身体が、そのまま真っすぐ戻ってきただけだ。
数は多いけれど、軌道が単純なために予測していれば避けられる。
膨らんで爆発、小さい本体を攻撃すると集結、何度か攻撃してみたがその繰り返しだった。
「きりないじゃん。無敵なの、こいつ」
「本体を攻撃しても効かないものね。さすがに攻撃が単調だからやられないけど、こっちも決め手がないわ」
打つ手のないまま、焦れていると地響きが鳴る。
「今度はなんですかー?」
キヌがウメにしがみつきながらそう叫んだ瞬間。
地面から巨大な黒い腕が勢い良く現れた。
「二体目だなんて……」
タエの言葉が、その不安定な恐怖に輪郭を与えた。
地面の奥深く、地獄の底から這い出るように巨大な腕は全容を現し、巨大な怪獣となった。
トキがハナの腕にしがみついてくる。
恐怖からなのか、不安からなのか、それとも絶望か。
ハナはトキの肩を抱き返す。
ハナの勇気の全ては、ただこの場で弱音を吐かないことだけに消費されていた。
ただ一言、「もう無理だ」と言ってしまうだけで、みんなの心は折れてしまう。
全ては終わってしまう。
それが痛感できるほど、新しく現れた怪獣は巨大で禍々しい気配を背負っていた。
二足歩行ではあるが、人間っぽいシルエットではない。
昔の特撮映画に出てくる怪獣のような、獣を感じさせる身体つき。
大きく湾曲した背中からは蒸気が漏れるような音がして黒い粒子が散っている。
先で二股にわかれた巨大な尻尾は、ただ引きずるだけで地面に修復不能なほどの傷をつけた。
タエが怪獣に向かって一歩踏み出て振り返る。
その表情は、笑っていた。
口元を弓型に曲げ、目を大きく見開いてタエは言った。
「諦めない。やるだけのことはやりましょう!」
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