第17話

 白い壁に簡素なロッカー。

 ビニールの座面に足がついただけの椅子。


 未来的な設備の基地の中でやたらと地味な更衣室でラブ・ストライクズのメンバーは着替えていた。


 設備が地味だからこそ、人の身体の温もり、柔らかさ、凸凹なんかが余計に目立つ。


 トキはいち早く着替え終わってしまったので話しながらみんなの着替えを見ていた。


 他のみんなは服を全部一緒に脱いだりしないし、なんだかモジモジと隠すようにして着替えるのですごく遅い。

 それこそが女子力だってハナは言うけれど真似しようとしてもいつもの癖ですぐに着替え終わってしまうのだ。

 だいたい隠そうとしたところで隠れるものじゃないし、更衣室は司令室みたいにモニターなんかないからまったく意味が無いことだと思う。


「でもイケメンがダメっていう人はいないでしょ。同じ性格で同じ頭の良さでイケメンとイボイノシシみたいな人がいたら誰だってイケメン選ぶに決まってるよ」


 ハナは下半身だけ下着姿になってそう言った。


「イボイノはかわいいです!」

「え? イボイノシシもありなの? もうキヌちゃんの守備範囲は無限大すぎるよ」

「そんなことないです。イボカワ派はいっぱいいます」


 キヌはさっきからスカーフを解いた程度で、着替えが全然進まないまま熱く主張をした。


「イケメンといえばカラフルマリーズの司令官よね。ハナさんはああいうのがいいのね、よい趣味だこと」


 ウメが下着姿のままそう言って笑った。


 その下着というのも、他のみんなとはちょっとジャンルが違っている。

 テラッテラの光沢のある生地に、チマチマとレースがあって全体的に面積が小さい。

 こういう下着はハリウッドセレブしかつけてるのを見たことがない。


 着替える時、一番堂々としているのはウメだ。

 特に隠そうとしていないし、視線を気にしたりもしていない。

 確かに自慢をしたくなるようなナイスバディではあるけど、多分ウメはそういうことも考えてない気がする。


 ただ、気にしないでいられるってのも自分の身体にコンプレックスがないからなんだろう。


 反対に隠したがっているのはキヌだ。

 モジモジと隠しながら着替えるから一番着替えが遅い。


 トキはたまにその遅さにイライラする時もある。

 女同士なんだから別に気にすることないのに。


「え、カラフルマリーズの司令官ってあの王子でしょ? いやー、あれはさすがにあたしは無理すぎるわ」

「イケメンと言えばイケメンよ。司令官が注目浴びることなんてないけど、あの王子だけは別格じゃない」


 タエが意地悪そうにハナに向かってそう言う。


 実は一番着替えの時に気にしているのはタエなんじゃないかとトキは思ってる。


 タエは上手いこと周りの様子を見て、隙を突くように一瞬で着替える。

 キヌのように照れながらモジモジと隠して着替えるのとは違い、人に見られたら死だとでも言わんばかりの早業だ。

 しかもそんな早業を繰り広げてることを気づかれないように、みんなとさり気なく会話をしながら一瞬で着替える。


「イケメン、優秀、独身。きっとハナさんが望む最高の司令官よ」

「でも、バカでナルシシストだよ」


 ウメの言葉にトキは口を挟んだ。


 通称王子と呼ばれているカラフルマリーズの司令官は、その容姿から女性ファンも多いらしいけど、口を開けばあまりにも間抜けな言動で毎回失笑を買っている。

 通常は人前に出ることなどない司令官という役職のはずなのに有名なのは、カラフルマリーズの完璧さを補って余りあるようなしょうもなさが笑えるからだ。


「そうなんだよ。王子はバカすぎるじゃん。イケメンでもあれはダメ。無理。イボイノシシの方が全然いいわ」

「イボイノは初めからかわいいですから!」


 キヌが未だに着替えのペースがあがらないままそう言う。


「考えてみればバランスはいいのかもね。カラフルマリーズだからこそ、あの司令官で」

「タエもそう思う? カラフルマリーズは出来過ぎでちょっと嫌味に感じる時あるもん。王子がバカ過ぎるせいで許せるんだよね」

「じゃ、うちらの司令官はどうなのさ? うちらとバランスがいいの? 悪いの?」


 トキがそう言うと、みんなは熟考するように動きが止まった。


 キヌがようやくモジモジとしながら服を脱ぎ終えた。


「悪くはないと思うのだけど。私たちだから司令官がいいとか、あの司令官だから私たちというピッタリした感じはまだないわね」


 タエが眉間にしわを寄せて言った。


 そういうタエだって今までの司令官なんかよりは絶対にいいと思っているはずなのに、素直に認めるは嫌なようだ。


「わかっちゃった! あたしたちが可愛いすぎるから、逆にバランス取るためにゴリラっぽい人にしたんじゃない?」

「ゴリラはかわいいですって!」


 もう何度目だろう。

 ハナの言葉にキヌが真っ赤になって反論する。


「ということはキヌさんは私たちが可愛くないからゴリラの可愛さが必要だと思ったのね。可愛くないと思われていたなんて悲しいわ」


 ウメが目の笑ってない顔で皮肉を言う。


「ヒヨッ!」


 キヌは唇の端をプルプルと震わせて瞳に涙をいっぱいためてウメを見る。


 動揺しているせいか、脱いだ服をまた着始めてしかもボタンを激しく掛け違っていた。


「ウメちゃん、あんまりキヌをいじめないでよ。トキと違って繊細なんだから」

「うちだって繊細だよ! 天才で繊細なんだから!」


 トキは反射的に言い返したが、ハナはキヌの頭をなでてこっちを見ていないし、ウメも気にもしてないように着替えを続けていた。


 全員が着替え終わる頃にタエが独り言のようにつぶやいた。


「私たちに必要な物って、なんなのかしら?」

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