第15話

 作戦司令室はいつもよりも華やいだ雰囲気だった。


 大きな花がたくさん送られてきたので、花瓶が足りないくらいそこら中に飾られている。

 お菓子もしばらくはなくなりそうにないほどたくさんあった。

 なによりも華やかさを生み出しているのは、みんなの表情だった。


 ハナは近くにあった花の匂いを吸い込む。

 香料のような嘘っぽさがない、ちょっと青臭いような香りに思わずニヤけてしまう。


「どうしよう、ものすごく褒められちゃった。取材なんか受けたのいつ以来だっけ?」


 ソファに寝転がってピーナッツの缶を抱きしめて独り占めにしているトキが指をしゃぶりながら答えた。


「ハナチャは記憶力がニワトリだからなぁ。ついこの間、5連敗して崖っぷちとか言われてやったの忘れたの?」

「忘れすぎたよ。あんなの取材じゃない。取材ってのはさっきみたいな、褒めて褒めて褒められすぎて褒められ尽くすものだよ。六回可愛いって言われたからね」

「あれはラブ・ストライクズ全体に対しての可愛いだよ。花が綺麗っていうのと同じ」

「え? いまあたしのこと綺麗って言った?」

「うざっ! ちょっと誰か、ハナチャがうざいんですけどぉ~!」


 そう言いながらもトキは終始くすぐられてるんじゃないかというくらい笑顔を浮かべていた。


 キヌはテーブルのカップに紅茶を注ぎながら、うっとりとした表情を浮かべて言った。


「久しぶりに、スーパーヒロインってこんなだったなぁ、って思いだしました。実は私、変かもしれないですけど、褒められるの好きなんです」

「うちも好きだよ。それを変だと思ってるキヌチャが変だから」

「トキ、寝っ転がりながら食べないの。だらしないわよ」


 ソファに寝転び、お菓子をボロボロこぼしながら頬張るトキに、タエが注意する。


 ウメがソファに近づき、ハンディ掃除機でトキの周辺を吸い込み続ける。


「ちょと吸われてる! ウメチャ、うちが吸われてるから!」

「掃除機はゴミを吸うものですもの」

「ゴミじゃないから! うちはただの天才だから!」


 悲鳴のような笑い声を上げながらのたうち回るトキをウメはわざとスポンスポンと掃除機で吸い込む。


 そんな平和なやり取りを見てタエはため息を吐いたが、その表情もどこか笑顔だった。


「たまたま司令官がああ言ってくれたおかげだよね」


 ハナはキヌの机の上に置いてあったフォトフレームに入ったゴリラの写真を指で撫でる。


「司令官……あんなにいい人だったのに……うち、司令官のこと忘れないからね!」

「死んだみたいに言いすぎ!」


 ハナはそう言いながら写真を戻し椅子に座る。


 テーブルにはフルーツのたくさんのったケーキと紅茶が並んでいる。

 タエとキヌもテーブルについていた。


「大丈夫は大丈夫だと思うけど、普通しないわよ。あんなこと」


 さっきまで明るい笑顔を浮かべていたタエも、一瞬で沈み込み、テーブルの上で指をいじりながら言う。


「普通の人じゃなさすぎるよ。ある意味、人間を超えた存在だよ」

「私、あとから見て……あぁ、もうダメです!」


 キヌはそう言うと手のひらで顔を覆ってしまった。

 あの衝撃的な映像を思い出さないようにしているみたいだ。


「でも、すごかったんだよ。キヌちゃんはあの時の現場見てないから。なんていうかな、超格好いいゴリラ? あたしがメスゴリラだったらやばかったよ」

「あれはうちもバの字ありえた」


 トキも口の周りをベタベタにしながらハナの言葉に同意する。


 確かにひどい怪我だったけど、傷だけを見て怖がってるキヌが可哀想だった。


 別に怪我したことがすごいことじゃないし、男のくせにスーパーヒロインと一緒になって現場で張り切るなんて馬鹿な話だとも思う。

 でも、あの時の郷里の、自分のことなんて考えもせずに突き進む姿は言葉には出来ない感動があった。


 まさか司令官にそんな風に思わされるなんて考えても見なかった。


 直前まで郷里にはむかついていたので、ギャップからか余計に好意的に思えてしまう。


「うん、危なかった。あたしももうちょっとでバの字きてたわ」

「そんなのズルいです。私は最初からバの字でした」


 キヌは覆っていた手のひらをどけ、眉を怒らせて大きな声で主張した。


 その隣でウメが無言で頷き、紅茶を飲み始める。


 差し入れにもらったお菓子を開けると、そのたびに歓声が上がった。

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