第8話
大きな作りのガッシリとした木製の机も、郷里にとっては手頃なサイズだ。
室内は現代というよりも一昔前の大臣の部屋のようだった。
椅子は革張りで柔らかく膨らんでいる。
豪華な刺繍の入ったカーテンに大きな窓。
書棚にはファイルが並ぶ。
天井からはなんとシャンデリアが吊り下がっていた。
一体誰の趣味でこういう調度になっているのだろう。
最先端の技術を享受しているスーパーヒロイン超本営の設備としては時代遅れだ。
机の上のモニターとキーボード、そして机の下に隠れるように置かれたパソコンだけが唯一現代を持ち込んだような形になっている。
そのモニターには作戦司令室で緊張感を欠いた会話をするラブ・ストライクズのメンバーが写っていた。
司令官として任官する前に、多くのアドバイスを貰った。
その殆どは、戦闘に対する技術的なものではなく、年頃の女の子の扱いの難しさに対してのものだ。
自分のことをどう言われようと構わない。
そもそも郷里は昔から若い女には好かれない事を自覚している。
代わりにおばあちゃんからは第一印象で強烈に好かれるが、それはこの際関係がない。
司令官とスーパーヒロインは友達ではない。
命令を下し、それに従い結果を出す。
それだけが任務の全てである。
彼女たちをどう操るか、その手腕こそが司令官に求められるスキルだ。
そう思いこの日に備えていた。
しかし、実際にスーパーヒロインを目の当たりにすると、自分の頭の中で構築したプランが全て瓦解した。
その理由ははっきりとしない。
自分のような一般人よりも遥かに強大な力を持ちながら、まるでそんなことに気づいていないように会話をする彼女たちの姿にショックを受けたのかもしれない。
重い机にあるスイッチを操作すると、壁に備え付けられていた棚が大きく開き、大画面のモニターが現れた。
その画面を9分割して、すべてラブ・ストライクズの過去の戦いの記録を流す。
映しだされる映像はほとんどが敗戦のものだった。
改善点が多すぎて、どこから指摘したらいいのか迷うくらいだ。
しかし、時たま勝利をつかむことがある。
郷里はその数少ない勝利の映像を繰り返し見ることにした。
ここに何かきっかけのようなものが隠れている気がしたからだ。
どれだけの時間が経っただろう。
気づけば窓から差し込む明かりはなくなり、部屋の中は画面が映し出す明かりだけになっていた。
ふと気づくと、拳は固く握りしめられ、その手のひらには深く爪の跡と汗があった。
対策を講じようと見ていたはずなのに、いつの間にかのめり込んで興奮してしまった。
面白いのだ。
ラブ・ストライクズの勝利は、その全てが華麗な逆転劇によってもたらされている。
それは言ってみれば、常に負け戦であるということでもある。
しかし、繰り返される絶望に諦めそうになった時に、不意に全員の歯車が噛み合う瞬間が訪れる。
そこからもぎ取る勝利というのは、見ている者にとって信じられない感動を与えてくれる。
このチームは人の心を動かす。
郷里はそう確信していた。
なぜなら、郷里こそが心をつかまれてしまった張本人だからだ。
こんな素晴らしいチームを埋もれさせてはいけない。
そのために、自分がどうすべきか。
暗い室内で、画面の明暗に照らされながら郷里は決意を新たにしていた。
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