第4話
挨拶をして椅子に座ろうとしたが、郷里の尻のサイズには椅子の座面が小さすぎてどうにも不快だった。
作戦司令室の机は先の開いたUの字になっている。
湾曲した頂点の先に司令官である郷里が座り、向かって左側にはハナ、タエ、ウメ。
右側にはキヌとトキが席についていた。
机の上にはなにもなく、その代わり作戦司令室の端にあるテーブルにはカップやお菓子が、リクライニングのマッサージチェアには誰かの脱いだ上着が、ソファには食べかけのお菓子と雑誌が乗っている。
郷里にとってここは職場であり、現場で戦うことのない司令官にとっては、この場こそが戦場とも言える。
にも関わらず、だらしなく私物が転がっている様子を見て、少しだけ落胆した。
郷里の意識の中では、もっとプロフェッショナルの最前線であるという思いがあったからだ。
しかし、そんな失望感を表情に出してはならない。
そう思い、郷里は顔の筋肉を引き締め顎に力を込める。
スーパーヒロインたちは、自分たちの席につき、緊張した面持ちでこちらを伺っている。
この少女たちが、郷里のキャリアを左右する大事な人材なのだ。
「ウッホン!」
軽く咳払いをしただけで、女の子たちは驚いて、背筋を伸ばす、小さく悲鳴を上げ椅子から転げ落ちるというパニックが繰り広げられる。
その反応の子供っぽさにも、若干の不安を覚える。
不安の分だけ顔が強張ってしまう。
「資料を拝見しました。名前を呼ばれたら返事をしてください。
「はひっ!」
向かって左側の席に座ったハナが声を上げた。
まつげが長く、緊張からか口元はひきつってヒクヒクと動いている。
他のメンバーは、そんなハナの姿を応援するように見守っている。
ハナに限らず、スーパーヒロインの見た目は本当に普通の少女だ。
その中に、とてつもない力が秘められているというのは、何度も目にしてきたが、やはり目の前にこうしてみるとにわかには信じられない。
ハナの髪型は色鮮やかなカラーリングで一体郷里にはどういう手順でその形に至ったのか理解できないような複雑な編み方をしている。
郷里は手元の資料を見て言った。
「能力は肉体強化系。年齢は15歳。武器はドリルグローブ。主に接近戦で相手に的確なダメージを与える。間違いはありませんか?」
「そうです。針の穴を通すような正確なパンチが自慢です」
ハナの答えにうなずき、郷里は手元の資料に書き加える。
「なるほど。針の穴、と。菊天タエさん」
「はい」
向かって左側の奥に座ったタエが落ち着いた声で答える。
表情は硬く、冷たいイメージがある。
他の女の子と違って悲壮感を感じるのは眉間にしわが寄っているからだろうか。
直線で切りそろえられた前髪、そして後ろに長く伸びる髪もまっすぐで一本の太い金属のような光沢を持ち、腰のあたりで切りそろえられている。
「タエ、頑張って!」
自分の番が終わったハナがタエに小さな声でエールを贈る。
タエはそれに険しい表情のまま、視線を向けて小さく頷いた。
「能力は物質変化系。年齢は16歳。二次元平面上の物質を変化させ、立体物を切断することができる。武器は二枚の扇子で、それを滑らせるイメージによって発動。間違いはありませんか?」
「はい、間違いありません」
「あとあと、タエはリーダーやってます。柔軟な対応でいつも頼りになりすぎるんです」
緊張から開放されたおかげか、ハナが挙手をして付け加える。
「いえ、ですが連敗が続いてますので。あまり大きなことは言えません」
「そんなことないよぉ。タエがいなかったらあたしたちなんて今頃ストレスでニキビだらけだよ」
ハナはタエをニヤけながら突ついた。
タエもちょっかいを出され困惑した表情でこちらを伺っている。
二人の仲は良好ではあるのだろう。
タエは対外的な反応を気にして振る舞うタイプ、ハナは自分の気持ちを優先するタイプと見た。
郷里はリーダーはペシミストよりもオポチュニストの方がいいと思っていたのだが、ラブ・ストライクズのリーダーはどうやらペシミストのようだ。
しかし、自分が指示を与える起点となるリーダーがこういうタイプなら、今後の交流もはかりやすい。
気分にムラのある者よりは、こちらの顔色をうかがう者の方が主導権が握りやすいからだ。
「頼りになるリーダー、と」
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