第1話
残酷とは知りつつも、少女が戦い傷つく姿に人は熱狂してしまう。
その舞台を整えるように地響きが鳴り、ビルが崩れる。
空気が震えるほどの咆哮を上げ、怪獣がその無垢な暴力を露わにした。
体長5m。
人間よりはるかに大きいその存在は、コンクリートの建造物を砂の城のように破壊する。
半球型の胴体からは六本の足が生え、巨大な三本の鎌を振り回す。
胴体の上には首があり、赤黒く輝く目、鼓動のように広がり縮まる口、意志を持たないグロテスクな表情の顔がついていた。
「いい? ハナとトキは見通しの良いあの通りの真ん中まで怪獣をおびき寄せて。そこまで来たらウメさんは怪獣の足止めをしてください。私とキヌが挟み込んで攻撃します。今日こそ勝って『ラブ・ストライクズ』の名前を見せしめましょう」
「そんなまどろっこしすぎることしないでも、あたしが倒しちゃっていいんだよね?」
その言葉は装備のスーツに組み込まれた通信でチームの全員にクリアに伝わる。
「ハナ。今回は調子に乗ってられる相手じゃないの。舐めてると痛い目見るわよ」
「あれ!? これあたしの武器じゃ――痛いっ!」
ハナは言葉の途中で怪獣の足に薙ぎ払われ、横っ飛びに壁に激突する。
ぶつかった建物はその衝撃で崩れ、瓦礫が降り注ぐ。
その様子を見て
怪獣と見つめ合い、作り笑顔で両手を上げる。
「ハイハイ。もう無理。降参降参」
「トキ、逃げないで。天才でしょ」
「だってこれうちの武器じゃないもん。ハナチャがうちの持ってっちゃったから。天才は繊細なんだよ」
「わかったわ。じゃあハナの救出お願い」
トキが手足をばたつかせてハナの元へと向かったのを確認して、タエはすぐ後ろに控えていた
「キヌ、一緒に行くわよ」
「ヒヨヨ。私ですか。その、心の準備が……」
キヌはまっすぐに槍状の武器を立て、その細い影に隠れるように身を潜めて言った。
「そうね、わかった。私がまず行くから援護して」
「すみません~」
タエが怪獣の脇に躍り出て二振りの扇を広げる。
この怪獣の身体からして幅広な胴体が死角となって足元に注意は及ばないはず。
そう考え、一気に足元に駆け寄ると太い足の横をすり抜けながら二振りの扇を重ねる。
その扇を真横に滑らせると、怪獣の足のから黒い体液が噴出した。
怪獣が首長く伸ばし、足元のタエを赤い瞳で睨んだ。
瓦礫を避けながら下がるタエを怪獣がバランスを欠いた動きで追い詰めてくる。
「えんご~!」
叫びながら、怪獣の胴体を、キヌがふわふわの毛のついた槍で叩いた。
怪獣は長い首を反転すると、キヌの方へと意識を向ける。
「キヌ、下がって! そっちに連れてかないで」
「え、え、えんごー!!」
目を瞑ったまま怪獣の腹の下で無茶苦茶に槍を振り回すキヌを、怪獣はなんの躊躇もなく踏みつぶした。
「キヌ!」
呼びかけるタエに、通信は無情なノイズを返した。
許せない。
絶対に倒してみせる。
固く目を閉じ、無念の感情を飲み込み、タエは顔を上げて怪獣を睨みつけた。
「いいわ。ウメさん、そこで足止めしてください」
「面白い冗談ね」
素っ気ない
「冗談なんかじゃありません。やって下さい!」
「まぁ、怖い。もっとおしとやかにいきましょう」
「もういいです!」
怪獣は大きく伸び上がり、鎌を広げ、威嚇するようにそびえる。
タエはビルに向かってジャンプし、二階部分の壁を蹴りあげ高く飛翔すると怪獣の背中に飛びかかった。
二枚の扇子を滑らせるように離すと、怪獣の角が地面に落ちる。
その攻撃の痛みというよりも、自分のテリトリーに入ったことへの苛立ちをぶつけるように、怪獣はタエの身体を跳ね飛ばした。
たった一撃で、立ち上がる力もなくなるほどの強力な攻撃だった。
タエはなるべく深く呼吸して痛みを抑える。
不意に怪獣がタエから視線を逸らした。
「ヘイヘイ、怪獣さん。ちょっとやんちゃがすぎるんじゃないのー?」
怪獣に向かって、トキに担がれたハナが一目で嫌悪感を抱きそうなポーズで挑発していた。
ハナとは対称的にトキは焦った表情でバタバタと逃げまわっている。
「ハナチャ、余計なこと言わないでよ。こっそり逃げようと思ったのに」
「あたしたちはまだ無傷よ」
「ハナチャはどうみても傷だらけだよ」
「違うね! 身体は傷だらけでも、心は無傷! 無傷すぎるよ!」
「歩けないくせになんて強気な発言。今度言ったら置いてくからね」
「なんでー、置いてかないでよ。ひどすぎる!」
「だったら黙って逃げようよ」
「わかったよ。じゃあ、トキ、逃げる前に一発お見舞いしてあげな」
「ちくしょう! 覚えてやがれぇ~!」
「違うよ、捨て台詞じゃないよ!」
「ほら、効果てきめん。こっち注目してるじゃん」
ハナとトキが言い合っているのを、怪獣はギロリと赤く輝く目で見下ろした。
鎌を伸ばし、トキたちの行く手を阻むと回りこむように体勢を変える。
「あれ、やばくない?」
「やだ……」
トキが泣きそうな顔でそう漏らすと同時に、怪獣は両腕を思い切り振り下ろした。
絶望的な気配が漂う中、怪獣の腕はトキたちを傷つける寸前で止まっていた。
「危ないところだったわね」
怪獣を押さえつけていたのは、ペチコートの中からスラリと伸びる白い足。
人気実力ナンバーワンのスーパーヒロインチーム。
カラフルマリーズだった。
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