第44話〜三つの選択肢

「あなたには3つの選択肢がある」


未だに硬直の治らないケンイチを見て、おそらく【鑑定】されたのだろうと当たりをつけつつも、ユキは淡々と言葉を紡いだ。


「一つ、転生者であることを隠し、与えられたスキルを一生隠して人里離れた場所で生きる」


そうでもしない限り、恐らくこの青年はまともな人生は送れない。


帝国に死ぬまで酷使されるか、他の国に飼い殺しにされるか。


少なくとも髪や瞳をどうにか隠して、スキルも隠蔽しなければまともな生活など送れないことだろう。


「二つ、いっその事スキルを公開して国に召し抱えてもらう」


強力なスキルを所持する転生者ほど、国は戦力として欲している。


この世界の住人でない彼等は、表向きは何もないが、裏では拉致、洗脳など、国によっては便利な道具として扱われる。


もちろん全ての国がそういうわけでもなく、中には能力主義、実力主義、稀少なスキル持ちであることを重視して雇用する国もある。


【鑑定】スキルならばいくつかの大国が候補として挙げられる。


「三つ、冒険者になる。これはあまりおすすめできない。けれどうまくすれば自由に生きられる」


冒険者は基本的に国の干渉は受けない。


扱いは流浪の民とそう変わらない、便利屋のようなものだからだ。


自由な代わりに国の補助も受けられず、しかしどんなものでもなることはできる。


冒険者になれば、うまくすれば様々な環境でも生きていけるだけのノウハウと経験が積めるだろう。


「あなたはどれを選ぶ?」


「え…?君について行くって選択肢は?」


「ない。足手まとい」


正直なところ、帝国の利とならなければそれでいい。


ケンイチを助けたのも、あのままでは帝国に転生者という戦力が加わってしまうからだ。


再び帝国に捕らえられてしまう可能性を考えれば、ここでケンイチを始末してしまうのもありだ。


しかし無用な血は流す必要はない。


何よりトモからはそんな指示は出ていない。


「あなたが私たちにとって不利とならなければそれでいい。帝国には気を付けなさい。それと、黒髪は転生者であることを吹聴して回るようなものよ。剃るか隠すか染めなさい」


ユキは冷たくそう言い放ち、軽い殺気を放つ。


トモは敵対する者、その必要がある者ならば相手が誰であろうと容赦なく始末する。


しかし関係のない者、必要のない者は決して殺さない。


それどころか場合によっては助け、救い出そうとさえする。


そして自らの意思で付いてくる者は拒むことはない。


幼い犬人族、若い暗殺者、巨人族の奴隷、他にも多くの者がトモに付き従っている。


しかし、ユキはだからこそ、そういった者達には厳しく接している。


神獣とはいえ狼の性故か、ユキは群を家族のように信頼している。


つまりはトモはユキの家族であり、群の長なのだ。


順従に付き従っているからといって、能力不足や軽率な行動でトモの弊害となってはならない。


だからこそユキが厳しく見張るべきなのだ。


目の前の、見るからに一般人以下の身のこなしの、どこか平和ボケした気配すら漂う青年など、いずれトモの邪魔になる。


だから追い払うように殺気を込めた瞳で睨み付ける。


トモとの旅の間で成長し、実力をつけたユキの殺気は、例え訓練された兵士であろうと錯乱し逃げ出すほどだ。


だからユキもこの軟弱そうな人ならば脱兎のごとく逃げ出すだろうと、


「頼む!俺を仲間にしてくれ!」


しかし、息もできないはずの殺気に曝されながらも、ケンイチはまっすぐユキの瞳を見ていた。


まるで恐れなどないように、覚悟が決まっているように。


ユキはその見た目と気配とはまったくチグハグな堂々とした態度に眉を顰めた。

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