第43話〜新たな目覚め

「それが読めて、さらにそういった反応をしたということは、貴方は転生者ね」


目の前の少女に転生者であると言われて、ケンイチは心臓が跳ねたように感じた。


しかし必死に動揺を隠そうと努力する。


小説や漫画の展開だと、このパターンはあまりよろしくない、そう彼は判断した。


ケンイチが今手に開いて持っている本。


これはおそらく、日本人が作った、もしくはその作成に関わったものだ。


そして少女の言葉から、これはケンイチのような異世界の人間を判断するためのものだ。


まだケンイチはこの世界に転生してから日が浅い。


判断材料もこの世界の情報も全くと言っていいほどに持ち合わせてはいない。


この世界で転生者がどう扱われるのか、神々から強力なチートを授けられた人間をこの世界の住人はどう判断しているのか。


ここで返事を間違えれば、最悪の場合容易くケンイチの命は吹き飛ぶ可能性も決して低くはない。


むしろ一度あっさり死んで、さらに二度目も数日で処刑されかけたり、檻に入れられて荷物のように扱われるこの世界では、人の命があまりにも軽過ぎた。


ケンイチは少女の透き通るような瞳から視線を逸らし、さりげなく【鑑定】を発動する。


名前:ユキ(スノウ=フェンリル)

種族:フェンリル(神獣)

職業:

状態:人化、主従契約

称号:神獣の子、人魔の契約者

レベル:127

スキル:【氷の支配者Lv6】【人化Lv8】【統率Lv4】【料理Lv4】【清掃Lv3】【隠密Lv7】【追跡Lv8】【暗殺術Lv4】

備考欄:フェンリルの子供。トモと主従契約を結んでいる。【隠蔽】と【鑑定阻害】の効果を持つ魔導具を身に付けている。





ここ数日の監禁生活の中で、ケンイチは【鑑定】スキルのレベルを大幅に上げ、更にはより詳細に、知りたい事を注視することでより深く知ることのできる【検索】という派生スキルを得ていた。


おかげで【鑑定】によって見られる情報が大幅に増え、統合させることでスキルの熟練度やレベル、その他【備考欄】という形で相手の情報を知ることができるようになった。


ケンイチ本人は気づいていないというか知る由も無いが、本来ならばスキルとは先天的な才能を除けばほぼ後天的に身に付けた技能によって発現する。


これは神々の恩恵によるものだという考えや、祝福によって昇華されたものだという考えがこの世界の主流である。


もっともそれは的外れな考えではなく、この世界を創造し管理する神々によって乱数的に、時折恣意的にもたらされるシステムである。


しかし大元は適正と努力値や経験値などであり、それが【スキル】による補助や成長に密接に関わってくる。


つまり生まれながらにして恩恵として【スキル】を所持して入れば、そのスキルによる補正が入りその分野の経験値や伸び代が大きくなるということ。


ケンイチの場合、転生という形で後天的に、しかし恩恵のような適正に合わせたものとは別に【スキル】を与えられたため、本来ならば熟達していく過程で培われる膨大な知識量や観察眼、熟練度が必要な【鑑定】スキルはそこまで育たないはずだった。


しかし異世界転生ものを熟読し、地球の無駄知識から無駄に高度な知識、そして高校までの一般教養。


それらがこの異世界で生まれながらにして【鑑定】スキルを持つものたち以上の経験値をもたらし、すでにケンイチの【鑑定】スキルはLv8まで上がっていた。


これは余程レベル差があり過ぎるか、存在の格が違い過ぎない限り、【隠蔽】や【鑑定阻害】といった魔導具の効果を越える熟練度だった。


その為視えてしまう。


【隠蔽】されていた少女の、ユキのステータスが。


そして同時にケンイチの勘が告げる。


これはフラグだと。


おそらくこの少女とのフラグではないが、何かしら大きな存在と戦うフラグだ。


【鑑定】スキルによる補正と異世界転生知識が化学反応を起こした。


ケンジに新たなスキルと称号が目覚める。


【フラグ看破】と【テンプレを見抜く者】である。

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