第38話〜白銀の少女と主人
スーラの街の人波を白い影が行く。
馬車が互いにすれ違える程度の広さの大通りとは言え、地球のように明確な歩道や車道に分かれているわけではない。
さらに大通りの両端には出店がずらりと並び、道の中央も両手を広げて進めば必ず人に当たってしまう程度には込み入っている。
しかし白銀の少女は誰に遮られることもなく真っ直ぐ進む。
歩く先は不自然なまでに自然と道が開いていくのだ。
誰も少女を認識しない、否出来ないのだ。
それは少し前まで少女の傍にいた青年のスキルによるもの。
そして少女自身のスキルと技術による結果だ。
『トモさん、対象は冒険者ギルドに入って行ったみたいです』
少女は声に出すことなく意識して心の奥底にある”繋がり”を通して話しかける。
するとすぐさま返事があり、間も無く数時間ぶりに少女は主人と再会する。
青年は優しく少女の白雪のような髪を撫でる。
すると雪がとけるように、少女は緩んだ笑みを浮かべた。
その表情は普段の彼女を知る者が瞠目するほどに可憐で幼いものだった。
『ぁぅ……。勇者候補の方はもういいんですか?』
いつもより砕けた、少女本来の口調での疑問に青年は頷くことで答える。
『そうですか。…あの転生者だと思われる男ですが、どうも視線の動きが変です。もしかしたら特殊なスキルか恩恵を所持しているのかもしれません』
少女の報告に、青年は【鑑定阻害】と【スキル察知】に反応があったことを伝える。
『ということは、あの男、【鑑定】スキル持ちの可能性が高いですね。テルンたちに調べさせますか?』
それには及ばない、と。
青年は自ら冒険者ギルドへと歩を進める。
ユキには一言、空気ではなく心を震わせる一言を残して。
始末するかは、直接視て判断するよ、と。
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