第35話〜ドナドナドーナ…

ドナドナドーナドーナー…


ジミー=ケンイチ、絶賛檻に入れられ幌馬車でドナドナ中です。


絞首と斬首どっちがいい?


と人生における最もされたくない二択をされ、恥も外聞もなく取り乱していたケンジ。


何度か死んでるじゃないか?


その時の記憶がない以上死ぬのは怖いに決まってる。


しかしそこで「待った」が掛けられた。


処刑を中断したのは帝国の勇者候補、バリスター=ドラコという男。


その男はケンジの処刑を最終的になかったことにし、さらには帝国にて保護する流れとなった。


しかしこれがケンイチにとって救いだったかといったらそうではない。


ドラコは【鑑定】のスキルが必要なだけで、ケンイチ本人には全くもって興味を持っておらず、家畜と変わらない扱いをしていたからだ。


さらにケンイチは聞こえてきた会話から、【鑑定】スキルを魔導具に宿らせるための贄にしようとしていることを知る。




【鑑定】スキルは稀少なスキルである。


そして幅広く応用の効くスキルでもある。


ある国では【鑑定】スキルを持っているだけで国の重役につけるほどである。


しかしほとんどの国では厳重な管理下に置かれ、一生生かさず殺さず使い潰され、最終的には魔導具にされる。


【鑑定】スキルを持つものは大体数千人に一人ほど。


ある意味勇者並みに稀少である。


かつてはその能力で大商人として大成した者や各分野で大きく歴史に残る発見や進化に貢献した者もいる。


しかし、能力そのものの希少性と、何より個人で所有するには都合の悪いと考える者が多過ぎた。


【鑑定】スキルは熟練度を上げるのに道具はいらない。


ひたすら【鑑定】し続けるだけでいい。


そして【鑑定】スキルは対象の全てをさらけ出してしまう。


隠したい【スキル】や能力、適性、犯罪歴まで。


これを悪用されればとんでもないことになる。


ここ数十年ほどで【鑑定】スキル持ちに対する扱いは大きく変化し、国によっては懸賞金をかけるところもあるほど。


ある種の希少種として【鑑定】スキルは注目されているのだ。


スーラの街での出来事のように問答無用で殺してしまう場合もあるため、その希少種は高まるばかりだ。




ちなみに、同じ【鑑定】でも、【鉱物鑑定】や【樹木鑑定】などは技能によって後天的に手に入るスキルのため別物として扱われる。


そしてさらに生まれながらに全ての詳細を知ることのできる【鑑定】スキルを所持する者は【神の瞳】を持つ者としてセブンス聖国では聖人扱いされ、要職に付けられることもある。


しかし帝国は完全に【鑑定】スキルを便利な道具としてしか見ていない。


所有者に能力があれば人材として雇用された可能性もあるが、良くも悪くも転生したてのケンジには実力をアピールする時間などない。


【言語理解】は国によっては勇者よりも【鑑定】スキルよりも喉から手が出るほど欲しい能力かもしれないが、しかし、完全実力主義の帝国からしてみればどの言語も話すことができる能力など眼中にはない。




ジミー=ケンイチ。


とことん運に見放されたというか、神の采配が悪いというか、数奇な運命に愛された男である。

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