第30話〜いらっ⭐︎
「おお、ゆう…謙一よ、死んでしまうとは情けないのぉ」
それは王様の台詞では?
そんな疑問は、しかし、言葉になることはなかった。
瞬き一つ前には狼に喰らい付かれる瞬間だったのだ。
それがいつの間にかまた白い空間にいて、目の前にはシャドウウルフの代わりに足元までヒゲを伸ばした自称神様がいる。
頭が混乱してまともな思考などできなかった。
「自称ではないんじゃがのぉ」
自称神はフォフォフォとわざとらしく笑い、謙一は頭を切り替えるのに数分ほどの時間を要した。
「俺は、死んだんですか?」
「死んだのぉ」
シャドウウルフに殺される直前にこの自称神が救ってくれたのでは、といった謙一の希望はあっさり砕かれる。
「シャドウウルフに噛み付かれて首の骨が折れ、急に血液を大量に失ったことによるショック死じゃ。ちなみに死体はほぼ残らず腹の中じゃな」
さらりととんでもないことを言われた。
「そこんとこの記憶が無いのって…」
「まぁそこは儂がうまく処理しといたぞ。さすがにそこの記憶があるままだとしばらくはまともに会話も出来んからのぉ」
フォフォフォと自称神が笑う。
謙一はあっさりとしたその物言いに、腹が立つことも苛立ちもなかった。
ただただ安堵に腰が抜けた。
それだけ謙一はほんの1日や2日程度の異世界探検で精神をすり減らしていたらしい。
しかし疑問はある。
死んだというならばなぜ、謙一は再びこの空間に呼び出されたのか。
「さすがに今回は早すぎじゃったからのぉ。せっかく異世界に転生させてやったのに、早々と死にすぎじゃ」
謙一の疑問は声を出す前に答えられた。
そういえば自称神にはこちらの思考など筒抜けだった。
プライバシーもへったくれもない。
これで謙一が女だったら完全なるセクハラである。
このヒゲは捕まったほうがいい。
「言いたい放題、もとい考え放題じゃの!まったく、一応これでも神なんじゃぞ?正確には管理者じゃが。抽選の結果とは言え願いを叶えてやったのは儂なんじゃぞ?その気になればおぬしを輪廻の輪から弾き出してやることもできるんじゃからな」
輪廻転生か。
宗教観はどちらかと一神教のあそことかよりあっちとかこちらのが近いのかもしれない。
あ、この物語はフィクションであり、実在する人物や宗教団体とは一切関係ありません。
一応心の中でそう言っておこう。
「今回のような抽選による転生は前回説明したと思うが、異なる世界を統治する神々同士の交流やテストとしての意味合いがある。そして儂らにとっては代え難い娯楽としての側面もな」
自称ヒゲはやれやれとばかりに肩を竦め、謙一を小馬鹿にしたような顔で見た。
「さすがにほんの数日程度であっさりと死なれてはテストにも娯楽にもならん。じゃからまた転生させてやろう。さすがに場所までは変えてやれんがのぉ」
いらっ☆
謙一は殺意を覚えた。
記憶がないとはいえ、直前まで死の恐怖に追い込まれていた者に対してのこの言い草だ。
いっそのこと捨て身の覚悟であの無駄に長いヒゲを根元から引き抜いて輪廻の輪から弾き出されてやろうか。
そんな謙一の決死の覚悟を読み取ったのか、若干引いた様子の自称神は話を逸らすよう言った。
「ふむ、お詫びといってはなんだが、もう一つスキルを与えてやろう。【恐慌耐性】じゃ。これでよほどのことがない限りは冷静さを保つことができるじゃろう。これは複数の精神的な状態異常耐性スキルの統合スキルじゃ。感謝するがよい。ではの」
自称神は謙一に行動する隙も与えず、再び異世界へと放っぽり出した。
実は今回以外にも何度かコンティニューしてることを知るのはしばらく後のことだ。
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