第29話〜呆気ない最期

謙一は全力で身体の震えを押さえつけようとしていた。


しかし一度震え始めた身体は両手で握りしめても抑え込むことはできない。


それどころか顎が震え歯が鳴り、ついには短い悲鳴のような呼気が漏れ出す始末だった。


それは謙一のほんの二メートルも離れていない、ほぼ真下の位置でこちらの方を見上げていた。


種族名:シャドウウルフ

性別:♂

レベル:24

状態:流血(中)

スキル:【追跡】【暗視】【隠形】



【追跡】:獲物と認識した対象を捉えやすくなる。


【暗視】:暗闇でも視力に補正がかかる。


【隠形】:周囲に自身の気配を隠すことができる。



いつの間にか【鑑定】スキルのレベルが上がったのか、やや項目が増えているがそれどころではない。


必死に気配を殺そうと試みるが、しかし、シャドウウルフは謙一のいる木の根元の辺りを嗅ぎ回っている。


そして


「……っ!」


赤い瞳と目があった。


当然ながらそこから始まるのは甘い恋などではなく弱肉強食の食物連鎖だ。


謙一がいたのは比較的低い枝だが、この木は大きくまだまだ上がある。


野生の獣が木を登ることもあると知っているが、狼が木を登るなどとは謙一は聞いたことがない。


だから大丈夫だと心の中で自分に言い聞かせる。


謙二はゆっくりと、木を登ろうとして


「あっ」


緊張で固まった手足が滑った。


謙一は待ち構えるシャドウウルフの真上に、頭から落下した。


偶然手に持った剣が落下の勢いでシャドウウルフの頭に刺さる、なんて幸運はない。


シャドウウルフは素早く身を翻し、謙一は地面に叩きつけられる。


衝撃に息を吐き出してしまい、動くことができない。


そしてそんな格好の獲物をシャドウウルフが逃すことなどはなく。


謙一は生きたままシャドウウルフに食い殺された。

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